わけわかんねぇ
佐為に出会って囲碁を知った。
塔矢に出会って強くなりたいと思った。
イマハ
いまは
今は
確かに存在した
アイツの
佐為の
強さを俺が証明してやるんだ。
だから
俺は・・・・強くなる。
塔矢よりも
佐為よりも
誰よりも
強くなるんだ・・・神の一手に近づく為に。
彼が僕の前に現れたのはなぜなのか?
時々そんな考えが頭をよぎる。
彼・・・進藤に負けた時
心が躍った。
もう一度打ちたいと思う程に。
それが叶った時
僕は深い闇へと落ち進藤を見下した。
もう打つことはないとさえ感じた。
しかし
今
進藤は僕の隣に並びつつある。
君が上を目指すというのならば
僕がそれより上にいこう。
だから追いかけてこい・・・進藤。
俺は今日も碁を打っている。
碁を打てばソコに佐為・・・お前がいる。
佐為・・・
お前なんで消えたんだ。
返ってくるはずのない声を期待する俺がいる。
佐為・・・
俺はお前に何をしてやれた。
今になって後悔するなんて馬鹿げてるか。
佐為・・・
佐為・・・
『・・・ヒカル・・・』
「進藤」
彼は時々すごく遠くを見てる感じがする。
「進藤・・・聞いているのか進藤。」
今進藤の前にいるのは僕なのに
今進藤と打っているのは僕なのに
進藤が何を考えているのかわからない。
進藤がどうして強さを求めるかなんて僕には関係ない。
僕にとって進藤の強さは特別だから。
今 現実に僕の前にいる進藤の強さが真実だから。
そういや俺今塔矢と打ってたんだ。
まだ駄目なんだ。
自分の碁の中に佐為を見つけてしまうと
どうしても考えてしまう。
「聞いているよ。」
嘘・・・本当は聞いてない。
ごめんな塔矢。
お前と打つのが楽しいのは本当。
でも
今はまだあいつのことが頭から離れない。
きっと一生無理なんだろうな・・・。
僕には進藤の考えていることなんて理解出来ない。
進藤は何も言わない。
僕も何も聞かない・・・聞いても無駄だってわかったから。
今は
只
僕の前から消えたりしないでくれ。
これでも一応進藤がいなくなった時
心配したんだ。
他校まで押しかけるなんて進藤じゃなかったら
そんなことしない。
だから消えないで。
塔矢・・・ごめんな。
打つからさぁ俺・・・
ずっと打ち続けるから
もう消えないから
そんな顔すんなよ。
いつもは嫌味くらい無表情なくせしてずるいよ。
あぁでも最近は
よく怒鳴ってるよな・・・俺にだけ。
もっと
モット
感情を見せて。
進藤と話している時僕は大声になる。
冷静に話していてもいつのまにか喧嘩ごしになっていたりする。
どうして
進藤の言葉は僕をこんなにも感情豊かにするのだろう。
まぁ今まで怒鳴り合う様な友人がいたわけでもないし・・・。
僕がこんなにも大声を出せるなんて進藤に会うまで知らなかった。
分かり合える人が出来るなんて思ってもなかった。
僕はひたすら碁の道を歩んで来た。
今もこれからもそれは変わらない。
そして
今もこれからも僕の隣・・・目の前には進藤がいる。
聞いてるって言ったけど一体なんの話してたんだろう。
しかもなんでジ〜ッと俺のこと見てんの?
もしかして聞いてないのバレバレで怒ってんのかなぁ。
でも
それだったら俺もう怒鳴られてるはずだけど・・・。
あきれてんのかなぁ・・・。
そりゃあきれるよな。
そういや俺が打つ番なんだもん。
進藤は自分でも気がついてないのか?
碁を打っている時
真剣な表情の中に少し哀しそうな感情が見える。
それともそれは僕の気のせい?
進藤の手が止まった。
きっと別の事を考えているんだろう。
そういう時進藤に話し掛けても無駄なんだ。
聞いてるようでまったく聞いてないんだから。
僕は待つのはかまわないが
哀しそうな進藤を見ているのは少し嫌だな。
だから碁を打とう。
アキラはヒカルに言い放った。 「打つ気がないのなら止めようか?」 本音とは反対の言葉。 その言葉にヒカルは怒り気味に言い返した。 「何馬鹿なこと言ってんだ。」 じゃないと泣いてしまいそうだったから。 ヒカルが打つ。 アキラが打つ。 二人が打つ。 そうして最後は検討。 二人の検討はいつも喧嘩みたいだ。 自分の言いたいことを言い。 相手が反論してきたら言い返す。 でも納得するところは素直に認める。 仲がいいのか悪いのか。 周りの人がその雰囲気を見たら きっと仲が悪いと思うだろう。 でもあの二人はお互いに認め合ってる。 だからこそ本気で言い合える。 そして指摘し合える。 そうして二人は高みを目指すのだ。 検討も終えた後 ヒカルは碁石を片付け立ち上がった。 自分のリュックを背負い アキラに宣言する。 「俺はまだまだ強くなる。絶対に追いついて ・・・追い越してやる。」 そんなヒカルにアキラは薄く笑う。 本当に嬉しくて。 「追いかけてこい。待ってはやらない。」 追いかけてきて 追いついて それでも 先に行くから。 「上等。」 ヒカルはアキラに笑顔を見せた。 久々にヒカルはアキラに笑顔を見せた。 本当に久々だったものだから アキラは少しの間見惚れてしまっていた。 「じゃぁな俺帰るわ。」 ヒカルの一言で我に帰ったアキラはとっさに ヒカルの腕を掴んだ。 「何?」 ヒカルが首を傾げる。 少し大人っぽくなったとはいえ その仕草は猛烈に可愛い。 「塔矢?」 アキラはヒカルに名を呼ばれ我に返った。 そしてヒカルの腕から自分の手を離し 上着を着だした。 「僕も帰るから一緒に行こう。」 自分で書いてて“何処に?”と突っ込みをいれたいが まぁそれは置いといて・・・。 「・・・ふ〜ん。まぁいいけど。」 二人はそんなに話すわけでもなく ただ歩いていた。 ヒカルがふと町を見渡すと 綺麗な飾りつけ そして楽しそうな男女がいた。 『・・・そういや今日は』 アキラの方を見ると アキラは静かに歩いていた。 『こいつって何考えてんのかわかんねぇんだよな。』 ヒカルがそう思った瞬間 アキラは立ち止まりヒカルの方を向いた。 「メリークリスマス。」 アキラはにっこりと にっこりと笑ってそう言った。 ヒカルはその状況に対応出来ず 呆然と立ち尽してしまった。 一人で先に行くアキラをヒカルは小走りで追いかけた。 すぐに追いつき隣に並び歩き始める。 ヒカルはアキラからあの言葉を聞くなんて 微塵も思ってなかったのでその意外さに淡く笑った。 その様子に気がついたアキラは少し照れていた。 何かを話すわけでもなく 二人は同じ時間を静かに共有していた。 碁を打っている時とは また違う心地良さが二人を包む。 この心地良さをどう言いあらわせばいいのか 二人は知らないでいた。 お互いを高め合う二人。 一緒にいればいる程 碁を打てば打つ程 ゆったりとした雰囲気が二人の 周りで漂う。 今はまだ 二人にとって神の一手を極めることがすべて。 でも それでけじゃない何かが生まれている。 二人がその感情に気がついた時 きっとそれからが始まり。 終了 平成14年12月 |