元気だしてよ

 

 

冴木は街中を早歩きで前に進んでいた。

時計に目をやり より足の進みが速くなる。

後もう少しで目的の場所に着くというところで呼び止められた。

「冴木君。」

 

 

ヒカルは待ち合せ場所で座って行き交う人を眺めていた。

いつもなら遅刻するヒカルだが今日は珍しく待ち合せ時間より早く着いた。

其処はお洒落なオープンカフェでヒカルは結構こういう場所が好きだったりする。

今日の待ち合せ場所もヒカルが決めた。

静かで周りも大人の感じの人が多くて誰も自分に干渉してこないからだ。

まぁヒカルのことをチラチラ見る人は多いのだがヒカルはそれに気がついていなかったりする。

 

ヒカルは自分からはズカズカと他人に踏み入って来るのに他人が自分に踏み入って来るのは嫌っていた。

他人と付き合うのが嫌いとかそういうんじゃない。

現に誘われれば遊びに行ったりしてる・・・でも一人で行動する方が多い。

長い間あの人と共にいた所為だろうか。

なのに最近は冴木と行動を共にする時間が増えている。

その事実にヒカルはまだ気がついていない。

 

 

ヒカルが只漠然と遠くに目をやると冴木が早歩きでこっちに向かって来ているのが見えた。

まだ約束の時間にはなっていない。

「何急いでるんだろう。」

ヒカルが疑問に思っていると冴木は立ち止まった。

どうやら誰かに呼び止められたみたいだ。

「なんだぁ。」

冴木は呼び止められた女にビンタをくらわされていた。

 

 

冴木が待ち合せ場所に着くと いつもならまだ来ていないヒカルが座っていた。

しかもヒカルはケラケラと笑っている。

冴木はヒカルと向かい合わせの席に座った。

「冴木さんふられたの?」

ヒカルは大丈夫?という感じで冴木の叩かれた方の頬をソッと撫でた。

「付き合っていた覚えはないんだが・・・。」

「なにそれ。」

「まぁ“さよなら”って言われたからふられたんだろうな。」

「ふ〜ん。まぁ冴木さんかっこよいからまたすぐ出来るよ。」

ヒカルに笑顔でそう言われ冴木は深い溜息をついた。

 

「「そういえば・・・」」

二人同時に同じ言葉を口にした。

ヒカルがニッコリと笑って冴木さんからどうぞってな感じで手を差し出した。

「えっ・・あぁ。今日はお前早かったんだな。」

「そうなんだよね。珍しくパッと目が覚めたんだ。」

本当はいつも待たせてばかりじゃ悪いと思ったから。

「そうか本当にそれは珍しいな。」

笑いながらそう言う冴木にヒカルは頬を膨らませる。

「それよりさぁ・・・なんで冴木さん早歩きだったの?まだ約束の時間過ぎたわけでもなかったのにさ。」

「早歩きだったか?」

「だった。」

「そうかぁ。」

冴木はいつも約束の時間より数分早く来ている。

ヒカルが自分に向かって真っ直ぐ走ってくるのを眺めるのが好きなのだ。

今回はそれよりも少し遅れてしまった。しかもヒカルに失態まで見せてしまった。

それを思い出して冴木はまた深い溜息をついた。

そんな様子の冴木をどう思ったのか ヒカルは冴木の横に席にちょこんと座り冴木の頭をポンポンと叩いた。

そして冴木の顔を覗き込み 満開の笑顔で言ったのだ。

「元気だして冴木さん。俺がいるだろ。」

ねっ。と首を傾けるヒカルの頬を両手で包み冴木が何かを言おうとした瞬間。

「今日は俺が相手になってあげるからさ。冴木さんの行きたいとこ付き合ってあげる。」

冴木はヒカルの頬を包んでいた両手をヒカルの肩に置きまた深い溜息をついた。

「何冴木さん。俺じゃ嫌なの。」

「嫌じゃないよ・・・嫌だったらそう何度も誘わないだろ。」

「そうだよね。俺も冴木さんに誘われるの嫌じゃないよ。」

その言葉に深い意味などないと知りつつ冴木は期待してしまう。

「進藤って俺のこと好きなの?」

「ん〜嫌いじゃないよ。」

ヒカルの返答に嬉しいながらも肩を落とす冴木。

 

 

「ほら。冴木さん元気だしてよ。」

 

 

終了

平成14年11月8日