傷 緒方×ヒカル

 

 

見える傷

見えない傷

この二つの傷のどちらの方が深いのだろう。

 

ヒカルは、見えない傷を抱えている。

そのヒカルが抱える傷の深さを緒方は知らない。

 

緒方は、ヒカルが大事ななにかを胸の奥底に沈み込ませていることを知っている。

だけど、それを引き上げようとは思ってはいない。

「緒方先生」

いつからかヒカルは、緒方の隣にいた。

関係を問われると困ってしまう。

「ヒカル」

緒方は、いつの頃からか二人きりになるとヒカルを名前で呼ぶようになっていた。

「なぁに」

時折、ヒカルは名を呼ばれると少しだけ寂しそうな表情を見せる。

それは、一瞬でそれを目聡く見つける緒方はすごいのだろう。

「こっちこい。かまってやる」

「なにそれ」

ヒカルは、緒方の言い方に曖昧に笑いながらも緒方の足の間に座る。

 

何も言わないヒカルに何も聞かない緒方。

 

「緒方先生」

「なんだ」

ヒカルは、緒方に体重をかけ緒方はそれを受け止める。

「俺は、もっともっと上を目指すんだ」

「気が合うな。それは俺もだ」

「皆が繋いできたものをこの先に繋げていくんだ」

ヒカルは、碁石を挟むようにして手を目の前にまで上げた。

その表情は、緒方には見えない。

 

 

ヒカルは、見えない傷を抱えている。

その傷の深さを緒方が知ることはない。

 

 

だが確実に緒方の存在は、ヒカルの傷を浅いものにしている。

 

終了