信頼 伊角×ヒカル
ヒカルの心が揺れている時は、決まって傍に伊角がいた。
何も眸に映さずに遠くを見つめるヒカルの傍に伊角はいた。
静寂の中で伊角の本を捲る音だけが室内に響く。
ゆっくりと、だけど確実に流れている時間は、ひどくヒカルを切なくさせる。
『佐為』
声をかけても返事はない。
後を振り返ってもいない。
そうして、目の前を見るといるのだ。
そこには、伊角がいるのだ。
ゆっくりと顔を上げる伊角とヒカルの視線が絡み合う。
伊角が、どうした?といった風に笑う。
そんな時、必ずヒカルは、泣きそうになる。
実際に泣いたことはない。
再度伊角に、ん?と笑いかけられヒカルも自然笑みを零すのが常だ。
ヒカルが夢現から現実に戻ってこれる瞬間でもある。
「伊角さん。」
「なんだ。」
「碁、打とう。」
「そうだな。」
――――― パチ・パチ・パチ
静寂の中で碁を打つ音だけが、切なく力強く響いた。
終了