不安 緒方×ヒカル
抱き締め合う身体から伝わる心地良い体温が好き。
その体温が離れていく瞬間が嫌い。
ヒカルの中の拭い切れない不安が時折顔を覗かせる。
朝、目が覚めてヒカルは自分が緒方に包まれていることに安堵する。
心地良い体温に擦り寄って現実と夢の狭間の中で考える。
『この体温が離れてしまったら・消えてしまったら俺はどうなるんだろう』
いつものように過ごせるはずはない。
取り乱すのだろうか。今度こそ感情が消えてしまうのだろうか。
不安が不安を呼んで更に不安に陥る。
そして、その不安を煽るかのように緒方が目を覚ます。
挨拶代わりのキスの雨に、ほんの少し不安に日が差す。
そのまま包み込まれたなら、晴天。
ゆっくりと体温が離れて、曇り。
そのまま遠ざかったら、大雨。
「シャワー浴びてくる。」
どうやら今日は、大雨らしい。
「お前も一緒に浴びるか?」
「バカ。」
「ひどい言われようだな。」
「だって、この前だって・・・」
恥ずかしいのかヒカルの語尾は、小さくなっていった。
「あぁ、確か浴びるだけじゃ済まなくなったな。」
「さっさと行け。」
「はい。はい。」
離れる前に唇を唇で掠め取られ雨が小降りになった。
緒方の言動・行動でヒカルの不安は、天候を変えていく。
最近ヒカルは、少しだけそれを受け止めるられるようになった。
時々、緒方によって不安を大きくされることもある。
だけど、その不安も緒方が小さくしてくれる。
「ほら、お前も浴びて来い。朝食はトーストでいいな。」
頭をヒカルの大好きな手で撫でられ嬉しくなる。
離れていく手・体温に寂しさを感じるが不安は、もう感じない。
カーテンの隙間から日が差している。
どうやら今日は、晴天みたいだ。
終了