ゲブーアツ・ターク ファイアーン

 

 

今日は、何の日なのか。

ヒカルは手合いを終え帰ろうとした時声をかけられた。

「ちょっと進藤君来てくれる。」

ヒカルは呼ばれるまま事務所へと足を運んだ。

「はい、これ。」

ダンボール一杯の花束と包まれた物がヒカルに手渡された。

「・・・何ですか、これ?」

真剣に聞いてくるヒカルに事務員は呆れた顔を見せた。

「進藤君、今日が何の日かわかってるよね?」

ヒカルはブンブンと顔を横に振った。

ちょうどそこへ緒方が事務所に入ってきた。

「進藤、今度は何をやったんだ。」

意地悪く口端を上げる緒方の問いにヒカルは答えるのではなく反対に質問した。

「緒方先生は、今日何の日か知ってますか?」

「あぁ。」

「何の日なんですか?」

本気でそう言っているヒカルに苦笑して事務員は後の事を緒方に任せた。

「さぁ、俺にとっては大事な日だが。」

曖昧に答えた緒方は咥えていた煙草を灰皿に押し付けスタスタと事務所を出た。

ヒカルもその背中を追いかける様に事務所を出た。

完全に無視されているダンボールの存在が虚しい。

事務員はそれを進藤宅へ郵送することを決めた。

 

 

緒方の車に乗ってもヒカルは聞き続けた。

「なぁ〜今日は一体何の日なんですか〜?」

緒方は答える気がないらしく、さぁなと笑うだけだ。

ヒカルはシートに身体を埋めむくれている。

そんな姿でさえ可愛いと感じてしまう緒方なのだがそれを口に出すとヒカルの機嫌が余計に悪くなるので口には出さず一人にやけていた。

車の窓から見える風景にヒカルは疑問を口にした。

「今日は素直に送ってくれるんですね。」

いつもヒカルが緒方の車に乗ると緒方の自宅へと直行なのだ。

「たまには・・・な。」

煙草をふかしながら運転をする緒方に今更ながらにヒカルは見惚れてしまう。

車が止まるとそこはヒカルの自宅だ。

「ありがとうござ・・・ってなんで緒方さんまで降りるの?」

疑問の目を向けるヒカルの背中を片手で押しながら緒方はヒカルに玄関を開けるように勧める。

「お帰りなさい、ヒカル。」

玄関を開けると母が笑顔で待ち構えていた。

「た・・・ただいま。」

「準備は出来ているのよ。緒方さんも早くいらして下さい。」

ヒカルの手をとり居間へと引っ張っていく母は嬉しそうである。

「あっ・・・そうか。」

テーブルの真ん中の大きなケーキにヒカルは今日が何の日なのかを知った。

「大きくなったわね。」

自分よりも大きくなった息子の頭を撫でて母はにっこりと笑った。

最近は囲碁ばかりで親子の会話と言うものが前よりも少なくなっていた。

しかも、緒方の自宅に入り浸るようになって余計にだ。

「緒方さんにね・・・今日くらいはヒカルを独占しないでって言ったのよ。」

母がクスクス笑っている横で父が静かに緒方に酒を注いでいた。

ヒカルの父はビールよりも酒が好きだ。

「ふふ・・・ヒカル誕生日おめでとう。」

母の祝いの言葉にヒカルは照れているのか視線を逸らし呟いた。

「ありがとう。」

今日が自分の誕生日だとわかったがなぜここに緒方もいるのかがヒカルにとって疑問だった。

自分たちの仲は親も知っている。だがこうして緒方がヒカルの自宅に上がったのは初めてのことなのだ。

ヒカルの視線に気がついたのか緒方が立ち上がりヒカルの横に座った。無論、正座である。

向かい側には父と母が並んでいる。

「緒方さん?」

疑問の目を向けるヒカルなど無視して緒方は話を進める。

「進藤を・・・いえヒカルを私に下さい。」

頭を下げる緒方と対照的にヒカルは目を見開き立ち上がった。

「おが・・・緒方さん、何言って・・・」

「ふつつかな息子ですが・・・。」

母がそう返事を返すと父が横でウンウンと頷いている。

「ちょっと待ってよ、母さん、父さん。」

一人慌てふためくヒカルを完全に無視して話はどんどん進んでいく。

「でも、結婚は二十歳になってからよ。」

「承知しております。」

「いやちょっと・・・日本じゃ結婚出来ないし。」

そんなヒカルをとことん無視して緒方はヒカルの左手をとった。

そして薬指にシンプルな指輪がはめられた。よくよく見てみると無数のダイヤが散らばっている。

「何これ?」

「婚約指輪だ。」

「よかったわね、ヒカル。」

「幸せになるんだぞ。」

「なんで・・・こんな・・・」

外そうとするヒカルを緒方が静止する。ジッとヒカルを見つめ一言。

「外すなよ。二十歳の誕生日には結婚指輪を贈ってやるからな。」

緒方の迫力に押されヒカルはおもわず頷いてしまった。

いきなりのことで驚いてしまったヒカルだったが実際は嬉しかった。

緒方との付き合いは本気だったし・・・ずっと一緒にいられるという約束が欲しかった。

「ありがとう・・・緒方さん。」

「誕生日おめでとう、ヒカル。」

緒方はソッとヒカルの左手の薬指に唇を寄せた。

 

 

その後、ヒカルの指輪についていろんな噂が囁かれたとか。

ちなみに緒方は指輪をチェーンに通してネックレスにしている。

ヒカルが照れて(?)そうしてくれと頼み込んだのだ。

緒方は渋々首に指輪をぶら下げている。

『結婚指輪は必ず指につける。』

そう心に誓う緒方であった。

 

 

終了

平成15年9月20日