考えがまとまらない あの涙はなんだったのか。 なにか苦しんでいた・・・んだろうな。 “オレのために一局打ってくれ” あの一局は 進藤が“碁をやめる”と言った進藤が 俺のためだけに打ってくれた一局。 “アイツが打ってたんだ・・・・・・” アイツって誰だ。 そいつが進藤を苦しめていたのか。 そいつは進藤にとってどういう存在なんだ。 なんで俺は進藤のことばかり考えてるんだ。 あの日から次に会った時 進藤にあの涙の面影はなかった。 只真っ直ぐに前に向かっていた。 “再スタート” あの一局は 俺にとっても進藤にとっても大事なモノだった。 だから・・・なんで俺は進藤のことばかり考えてるんだ。 「伊角さん。」 「伊角さんってば!!」 「えっ。」 俺が顔を上げると其処には進藤がいた。 進藤のことを考えていた所為か俺は少し動揺したがそれに進藤は気がつかない。 俺は平然を装う。 「どうした進藤?」 「伊角さん何考えてたの?すごい真剣な顔してたよ。まるで対局してるみたいだった。」 「そうか?」 「うん。俺がジ〜ッと見てても気がついてくれないから声かけたんだ。」 進藤は話しながらもジッと俺のことを見てる。 一体なんなんだ。 無言で見つめられていることに堪えられなくなって俺は口を開いた。 「俺の顔に何かついてるのか。」 「前々から思ってたんだけどさぁ。」 「何?」 「伊角さんって前髪邪魔じゃないの?」 「ハァ?・・・っておい。」 進藤の顔が近づいてきて進藤の手が俺の前髪をかき上げる。 そして進藤はものすごく真剣な顔で言ったんだ。 「伊角さんってすごい男前なのに前髪で隠れてもったいないよ。」 俺は言い終わった後の進藤の笑顔に思わず見惚れてしまった。 「でも・・・やっぱりいつもの伊角さんも良いかな。」 「進藤・・・?」 「俺はどっちの伊角さんも好きだな。」 おい・・・今なんて言った? それはどういう意味だ? 「それじゃ伊角さんまたね。プロ試験頑張ってね。」 「ちょっ・・・進藤!!」 ったくぅ・・・進藤のやつ一体何だったんだ。 俺は進藤の応援もあってか というかまぁ俺の実力だろうけど・・・・プロ試験に合格した。 いつでも考えの最優先は囲碁だった。 でもあの日以来・・・もしかしたらもっと前からかもしれない。 俺は囲碁と進藤のことばかり考えている。 あの進藤の“好き”という言葉に深い意味はないのかもしれない。 でも俺にとっては重要な言葉だった。 そうあの一局程に。 いつかあの涙の理由を俺に話してくれる時がくるのだろうか。 俺はお前の支えになりたいわけじゃない。 お前に俺の支えになって欲しいわけでもない。 お前にとって俺は何? 俺にとってお前は何? 考えれば考える程 考えはまとならない。 今度しょうがないから進藤にあの“好き”の意味を聞いてみよう。 そうしたらきっと考えはまとまるはずだから。 終了 平成14年10月30日 |