になり始めたら止まらない

 

 

俺が人に

しかも年下の男に

興味を持つなんて自分でも信じられない。

 

 

碁を初めて一年足らずで若獅子戦

―――初参加だったから励ましてみたり

プロ試験予選も通って

―――結果が気になって用もないのに棋院行ってみたり

本戦も勝ち抜いて

―――手合いがあってその日に会えなかったのを残念に思ったり

プロになって

―――デビュ―戦前に緊張ほぐしてあげたり

いきなり姿を消して

―――研究会にも来ないのでかなり心配してみたり

いきなり戻ってきて

―――練習手合いに負けてくやしいが嬉しかったり

 

 

どうやら俺はあいつ・・・進藤ヒカルが気になってしょうがないらしい。

 

 

進藤が戻ってきた。

なにか以前と雰囲気が違うのが気になる。

なんか大人っぽくなった。

 

姿を消している間に何かあったのか?

気になるが進藤が何も言わない以上聞けやしない。

 

それにしても以前は可愛い印象が強かったのに最近は綺麗な印象が強い。

だから思わず聞いてしまった。

「進藤って好きな人いるの?」

「ハァ~?いきなり何ですか冴木さん。」

「雰囲気変わったからそうなのかなってさ。」

「俺は変わってませんよ。」

一瞬 曖昧に笑う進藤が哀しそうに見えたのは俺の目の錯覚?

「そうかな・・・まぁいいや。でどうなの?」

「これといって好きな人はいませんよ。」

「ふ~ん。でも言い寄られたりするんじゃない。」

「一回もない。」

おかしいな。俺が知っている限りでもかなり言い寄られてると思うんだが。

もしかして自覚無いのか。

「それに・・・。」

「ん?」

「自分の好きな人以外からの想いなんて俺には無意味だから。

好意は嬉しいけど俺は好きな人からの想いだけで良い。」

その言葉と共に進藤の真剣な瞳が俺の心臓を貫いた気がした。

「でもいないんだろ?好きな人。」

「大切な人はいたけどね。」

やっぱり錯覚じゃない。進藤はまた哀しそうに笑った。

聞いていいのかと思いつつ俺の口は自然に開いていた。

「大切な人?」

「・・・好きとかっていうんじゃなくて本当に大切だったんだ。

いなくなって気がつくなんて本当に俺って馬鹿だよね。」

なんでそんな哀しそうな顔で笑うんだ。

でも次の瞬間にはいつもの進藤に戻っていた。

「冴木さん。」

「何?」

「俺ね。今好きな人はいないけど気になる人はいるよ。」

悪戯を思いついた様な笑顔と爆弾発言を残して進藤はその場から去った。

 

 

進藤・・・

俺にも気になってる人いるんだよ。

 

 

いつもの笑顔も

あの哀しそうな笑顔も

碁を打っている真剣な顔も

お前の大切な人のことも

お前の気になる人のことも

 

とにかく俺は進藤ヒカルが気になってしょうがないんだ。

 

 

終了

平成14年10月29日