寂しい〜伊角編〜 進藤はよく後ろを振り向く。 ただ振り向くだけなら俺も気には止めなかったんだろうな。 「進藤って時々後ろ振り返ってるけどそれって癖なのか?」 振り向く度に進藤の顔が寂しげで それが気になって聞いた。 聞くんじゃなかった。 「そんなに振り返ってる俺?」 「あぁ・・・。」 どうしてそんな風に笑うんだ? 俺はどうしたらいいだろうな。 進藤は何も言わない。 だから俺も何も聞かない。 ソンナフウニワラワナイデ そんなこと言えばきっと進藤はもっと辛い顔をする。 だって進藤は自分がどんな顔で笑ってるかきっとわかってない。 寂しいよ・・・進藤。 お前は何を誰を捜してるんだ? 寂しい? 俺が? なんで? シンドウガジブンヲミテクレナイカラ 近くにいるのに進藤の背中が遠ざかる錯覚を覚えるのが嫌だ。 しんどう シンドウ しんどう シンドウ 進藤 振り向いて 『ヒカル』 何度呼んでも振り向かなかった進藤が振り向いた。 ―――――名を囁いただけなのに 「進藤・・・。」 俺の目の前に寂しい顔のままの進藤がいる。 「伊角さん・・・。」 「何がそんなに不安なんだ?」 そんな進藤を俺は抱きしめた。 不安なんて俺が消してやるよ。 だから ダカラ だから ダカラ ソンナカオシナイデ 俺の腕の中の進藤は小刻みに震えていて 俺はそんな進藤を抱きしめることしか出来なくて 「消えないで・・・いなくならないで・・・」 今自分の腕に存在している温もりを離したくなくて 「大丈夫だよ。俺は消えないしいなくもならない。」 自分に少しでも本音を漏らしてくれたのが嬉しくて 腕の中の愛しい子を不安にさせたくなくて 先刻よりも強く抱きしめた。 進藤は今でも後ろを振り返っている。 後にいる俺は微笑んでやる。 進藤も微笑む。 進藤が嬉しそうに笑うと俺も嬉しいんだ。 終了 平成14年12月20日 |