傍にいてよ

 

 

ヒカルはなぜが居酒屋にいた。

 

大事な大手合いに勝利した冴木のお祝いという口実で飲みに来ているのだ。

ヒカルは断わるつもりだったのに

「え〜進藤が行かないなら俺も遠慮しようかな。」

主役の冴木がそんなことを言うから断わりきれなかった。

 

 

当然ヒカルは未成年なので皆が酔っ払っていくのを呆然と見ているだけだった。

和谷は平気で飲んでいる・・・かなりやばいっぽい。

ヒカルは自分が何の為に此処にいるのかがわからなかった。

冴木の勝利を喜んでいないわけじゃないけど・・・ちょっとこういう雰囲気が苦手気味。

じゃ帰ればええやんと思うだろう。

しかしヒカルには帰れない理由があった。

 

 

「ん〜進藤・・・。」

「はいはい。此処にいるって。」

 

なぜこういう状況になったのか―――

 

冴木は本来酒には強い方なのだが

飲み会が始まってそうそう皆に酒を飲んでは注がれ飲んでは注がれの繰り返しで潰れた。

しかもただ潰れるだけじゃなかった。

おもむろに横にいたヒカルにしがみついたのだ。

しがみつかれたヒカルは飲んでいた烏龍茶をあやうく溢しそうになった。

「さ・・冴木さん。」

「う〜・・・・ん。進藤って気持ちいい〜・・・。」

「ハァ〜?何意味不明なこといってんですか。」

ヒカルがどんなに剥がそうとしても冴木は剥がれなかった。

冴木は剥がそうとすればする程きつくヒカルを抱き締めた。

周りの皆はその光景を見てただ大笑いするだけ・・・。

 

そして

ヒカルは剥がすのを諦め今の状況に到るのである。

 

「・・・進藤・・・」

「なんですかぁ・・・。」

 

目が虚ろな冴木はヒカルの胸に顔を埋めて呟く。

 

「傍にいて・・・離れないで・・・」

「・・・・」

「ねぇ傍にいてよ・・・・・・しんど・・ぅ・・・」

「・・・冴木さん?」

 

ヒカルが冴木の顔を覗き込むと冴木は静かな寝息を立てていた。

それでもけっしてヒカルから剥がれなかった。

 

 

『冴木さん・・・ちゃんと言っていくれないと俺馬鹿だからわかんないよ。』

 

 

ヒカルは自分の胸にいる冴木の頭をゆっくと撫でた。

 

 

終了

平成14年12月7日