初々しい人

 

 

ヒカルが碁をまた打ち始めたあの日以来

伊角は度々ヒカルの家に足を運んだ。

一局打っては検討したりと二人は有意義な時間を過ごしていた。

和谷の家でやる勉強会とは違う二人だけの時間が其処にはあった。

 

その日もいつも通り伊角がヒカルを訪ねてやって来た。

「なぁこのビデオなんなんだ?」

無造作に床に置かれているビデオを踏みそうになり伊角は手に取った。

「ビデオ?」

なんのことだかわからないヒカルは伊角の手の中を覗き込む。

そして思い出したように口を開いた。

「あぁそれ確か和谷に渡されたんだ。」

「和谷に?」

「これ見て勉強しろって言ってたから中身はやっぱ碁じゃないのかな。」

渡されたまま中も見ずに忘れていたと笑うヒカルにつられて伊角も笑みを浮かべる。

 

 

しかしそのビデオの内容を確認して二人は唖然とした。

 

 

「な・・・何?」

ヒカルは思わず停止ボタンを押し伊角の方に顔を向けた。

伊角もゆっくりとヒカルの方に顔を向け苦笑した。

「・・・まぁいわゆるエロビデオってやつだろうな。」

その言葉に微かに紅かかったヒカルの顔が更に朱色に染まった。

そしてヒカルは取り出しボタンを押した。

「なんだ見ないのか?和谷に勉強しろって渡されたんだろ。」

「でもさぁ・・・あんま興味ないし。」

碁に集中している若き青年は色恋沙汰には疎かった。

「進藤ってsexのやり方とか知らないだろ。」

「い・・・伊角さん何言ってんだよ。」

ヒカルの慌てぶりを見る限り伊角の言葉は正解なのだろう。

「じゃやっぱり見とかないとな。いざという時役に立つぞ。」

取り出されたビデオをデッキに押し戻し伊角はヒカルの横に座った。

 

 

画面には男と女が抱き合って唇を合わしてという行為がドラマ仕立てで映し出されていた。

 

 

ヒカルはその画面を伊角の肘辺りの服のゆるみを両手でしっかりと握って見ていた。

そして不意に口を開いた。

「伊角さんはこういうのよく見るの?」

「ん〜あんまり見ないけど。」

ヒカルは握っていた服を引っ張り伊角を自分の方に向かせた。

「じゃこういうの役に立ったことある?」

ヒカルは言うこういうのとはずばり今画面に映し出されている行為のことを言っている。

「今のとこそういう機会に恵まれたことはないな。」

そうつまりは伊角も碁に集中している若き青年なのだ。

 

ただ最近は健全な青年らしく自慰行為はしている・・・ヒカルのことを考えながら。

 

伊角の言葉にヒカルは嬉しそうに笑った。

「なんだ伊角さんもしたことないんだ。」

そんなヒカルを伊角は無言で見つめていた。

「伊角さん?」

ヒカルの問いかけに伊角はニッコリと笑った。

「したことないけど・・・知識は進藤よりもあると思うけど。」

そして伊角は次の瞬間ヒカルを自分の股に挟む格好で後ろから抱き締めた。

「ちょ・・・伊角さん?」

戸惑うヒカルの耳に伊角は囁く。

「なぁ画面見てみな進藤。」

言われるまま画面を見てヒカルは恥ずかしさから口をパクパクさせた。

 

画面の男と女は―――自分たちと同じ姿勢だった。

 

伊角はその画面の男同様に手を動かし始めた。

「伊角さん・・・」

不安気なヒカルを安心させるように優しく頭を撫でる。

それが心地良いのかヒカルは身体の力を抜いた。

 

伊角はソッとヒカルのうなじに唇を寄せ舌を這わせた。

それと同時に手は服の中へと浸入し肌の感触を確かめるようにゆっくと動いた。

 

画面では男が女の乳房を揉みほぐしていた。

 

そして伊角もヒカルの胸の実に辿り着いていた。

「進藤・・・もう此処こんなに固くなってる。敏感なんだな。」

自分でも触らない処を触られて・・・しかも言葉通りヒカルは感じてて何も言えなかった。

そんなヒカルを楽しそうに眺めつつ伊角は手を動かした。

 

伊角の手がヒカルのズボンの中に侵入しようとした時ヒカルは口を開いた。

「やだ・・・何する気なんだよ伊角さん。」

心もとない潤んだ瞳で拒否されて伊角が行動を止められるわけもない。

「わかってるくせに。」

伊角がそう囁いた時のヒカルの表情は本当にわからないという感じだ。

「・・・もしかして進藤って一人でやったことないのか?」

ヒカルはその言葉によけいに首を傾げる。

「一人でやるって?」

伊角はもしかしてと思いヒカルのズボンとパンツを一気に脱がせた。

「何すんだよ伊角さ・・・ちょ・・っ・・」

そしてヒカルの背中から前へと移動してヒカルの露になったソコを見つめ指で撫でた。

「やっぱりまだ皮かぶってたか。」

自分のソコをマジマジと見つめられ弄られヒカルは恥ずかしくて堪らなかった。

「なんでこんなこと・・・すんのさぁ。」

「ん〜進藤を大人にしてあげるんだよ。」

「大人?」

「そう・・・ここに被ってる皮をねこうやって」

「ちょ・・・なにやだぁ・・・って・・・痛ぃ・・・」

「・・・濡らした方がいいかな。」

伊角の次の行動にヒカルは唖然とした。

そして慌てて自分のソレから伊角を引き剥がそうとしたが力がはいらない。

自分のソレを舐める伊角の紅い舌がチロチロと目線に入りヒカルは目を閉じた。

 

TVの画面にはもう何も映っていなかった。

 

伊角は荒く息をするヒカルの濡れたソレを綺麗に拭いて服を着せた。

そしてヒカルの顔を覗き込み笑顔を見せた。

「おめでとう進藤。これでお前も大人の仲間入りだな。」

ヒカルは息と息とが触れ合うぐらいの近さでそんなことを言う伊角の胸を押した。

しかし伊角はピクリとも動かなかった。

「好きなんだ進藤。」

その言葉にヒカルは下に落としていた目線を伊角に向けた。

伊角は碁を打つ時と同じくらい真剣な顔をしていた。

ヒカルが好きな伊角の表情の一つだ。

「こういうことするのが?」

ヒカルの言葉に伊角はそうきたかと深い溜息をついた。

「違うよ進藤。俺は進藤が好きなんだ。」

「俺を?」

「そう・・・だから我慢できなかった。」

これでも伊角はまだ我慢しているのだ・・・これ以上のことをヒカルにしたいと思ってる。

バツが悪そうに笑う伊角の手をギュウッと握りヒカルは笑った。

伊角が好きなすごく柔らかい笑顔。

「俺別に嫌じゃなかったよ・・・伊角さんにあんなことされるの。」

その言葉を聞いて伊角はヒカルの唇に自分の唇で優しく触れた。

「こんなことは?」

唇が離れた瞬間の言葉にヒカルは口の両端を上げた。

再度伊角は唇を落とす。

「嫌?」

「・・・嫌じゃないよ。」

「そうか。」

「うん。」

そして伊角は優しくそして強くヒカルを抱き締めた。

『今日はこの辺で止めておくか。』

伊角の心中などしるよしもないヒカルはそのまま大人しく抱き締められていた。

 

 

 

後日ヒカルは和谷にあのビデオを返した。

「おっ進藤どうだった。」

「見てない。」

「ハァ〜?せっかく俺が貸してやったのになんで?」

「なんでって・・・」

そのまま言葉を止めて薄っすらと頬を紅く染めるヒカルを見て密かに微笑む男が一人。

「進藤って本当にお子様だよな。」

同意を求めるように視線を向ける和谷に伊角は微笑んだ。

「初々しくていいんじゃないか。」

その言葉に納得したのか和谷も笑った。

ヒカルだけが笑えるわけもなく笑っている伊角と和谷を恐くもない顔で睨みつけていた。

 

 

終了

平成15年2月28日