想紅・おもいくれない(深緋・こきひ):睦月誕生色:我愛羅×ナルト
いつも通り任務を終えて火影に報告をした帰り道のことだ。
「う〜、寒いってばよ。」
ナルトは、背中を丸め腕を自分の手で擦りながら家路へと足を進めていた。
昨日の晩から静かに降り続いている雪が辺り一面を真っ白にしている。
ナルトの口から吐き出される息も白い。
「ん、あっ!」
ナルトは、ふと視線を向けた先にある色を見つけた。
その色は、ナルトに特定の人を思い出させる。
「寒椿、かぁ。」
ナルトは、凛々しく雪の中で咲く椿に歩み寄った。
「深い緋色だってばよ。」
咲いている椿もあれば、まだ蕾の椿もある。
「この分だと落花は、当分先だよな。」
ナルトは、そう呟きながら視線をある枝に止めた。
「えっと、少しだけ分けてもらいたいってばよ。」
ナルトの言葉の後、少しだけ風が吹き椿が揺れた。
「ごめん、でもありがとうだってばよ。」
ナルトは、寒さで赤くなっている手で蕾を数個つけた椿の枝を折り椿に対して一礼した。
雪は静かに舞い、椿は凛としてその場に咲く。
若くして風影になった我愛羅は、その日も忙しく書類に目を通していた。
――――― コンッコンッ
扉を叩く音がした後、声が聞こえた。
「我愛羅、入るぞ。」
執務室に入って来たのは、我愛羅の姉であるテマリだった。
「どうした?」
我愛羅は、書類から目を離さず声だけかけた。
テマリは、ゆっくりと足を進め我愛羅の机の前で立ち止まった。
「我愛羅に贈物だよ。」
その言葉に我愛羅は、なんの反応も示さない。
「どこの誰からだと思う?」
テマリの問いかけにも、なんの反応を示さないまま書類に目を通し続けている。
「その辺に置いておけ。」
一向にそこから動きそうにないテマリの様子に我愛羅は、やっと声をかけたがやはり視線は書類に向けられていた。
いつもなら風影に贈られてくる物は、そこら辺に置いてさっさと退出するはずなのだ。
だから我愛羅は、いつも通りにしろという言葉を放ったのだ。
「なぁ、我愛羅。」
「なんだ。」
「これは、我愛羅に贈られてきた物なんだ。」
つまりそれは、風影ではなく我愛羅個人に宛てた物だということだ。
そこでやっと我愛羅は、顔をテマリに向けた。
テマリは、ニィッと笑ってそれを差し出した。
「ほら、これだよ。」
テマリから差し出されたのは、数個の蕾をつけた枝だった。
「この辺では、見ないな。」
「あぁ、『椿』という名の花らしい。」
花瓶に入った椿をテマリは、我愛羅がよく見える場所に置いた。
「ほら、手紙だよ。」
そして、それと一緒に届いた手紙を我愛羅に渡してテマリは執務室から出ていった。
我愛羅個人に贈物を贈る者など一人しかいない。
『椿が落花する前に会いに行くってばよ』
手紙には、その一言だけが書かれていた。
我愛羅の無表情な顔がわずかに緩むが、それはすぐ様元に戻った。
そのまま視線を椿に向け、蕾がまだ開きそうにないことを残念に思った。
それから毎日、我愛羅は椿に視線を向けることとなった。
我愛羅に椿を贈ってからナルトは、休みをもらうために任務をかなり頑張ってこなしていった。
毎日毎日野に咲く椿に目をやり我愛羅に贈った椿が咲き始める頃を予想していた。
砂と木の葉では、環境が違う。それでもきっと咲き始める時期は、同じ頃のはずだ。
椿は、長いこと咲いている。
だが、木の葉で咲き始めた頃に木の葉を出ないと砂での落花に間に合わないかもしれない。
火影から休暇の許可をやっと貰いナルトは、そのまま急いで砂に向かった。
もう木の葉の椿が咲き始めてからだいぶ日が経っている。
落花しているのも見かけた。
真っ白い雪に花びらを散らさず落ちる椿は、よく映える。
「ばっちゃんは、人使いが荒いってばよ。」
ぶつぶつと文句をいいながらもナルトは、火影に感謝していた。
この忙しい時期に長期休暇をくれたのだ。
火影である綱手は、どこかナルトに甘い部分があるがそれなりの任務をナルトに課していた。
「文句言ってないで、さっさと終わらせな。長期休暇が欲しいんだろ。」
ニヤニヤと笑いながらナルトをたきつけていた。
綱手は、ナルトが誰になにを贈っていたか知っている。
そして、その花言葉も知っている。
「あいつは、結構尽くすタイプなのかねぇ。」
クスクスと笑いながら書類に目を通す綱手の表情は穏やかだ。
我愛羅が毎日眸に映す椿は、もうほとんどが花開いていた。
もう既に落花しているのもある。
「また潔く散る花だな。」
我愛羅に書類を渡しに来たテマリが花瓶の周りに落ちている椿に視線を向けた。
「なぁ、我愛羅。」
そうテマリが呼びかけた時だ。
――――― コンッコンッ
「入るじゃんよ。」
特有の言葉を放って入って来たのは、我愛羅の兄であるカンクロウであった。
カンクロウも我愛羅に書類を持って来たのだ。
入って来たカンクロウなど無視して我愛羅は、書類に目を向けているしテマリは椿を見ていた。
それもいつものことなのでカンクロウは、気にせず我愛羅に近づいた。
「これがいつもの書類で、こっちがお前宛の手紙じゃん。」
テマリとカンクロウは、ナルトから我愛羅に届けられる物は、いつも我愛羅本人に渡すことにしている。
我愛羅がそのことに気がついたのは、先日テマリが椿を持って来た時だ。
「で、テマリはなんでそんなジッとそれ見てるじゃん。」
「あぁ、なんとなくだが似てるな、と思ってな。」
その言葉にカンクロウも椿に視線を向けた。
深い紅に彩られた椿は、凛としてその場に存在してる。
チラリと二人は、我愛羅に視線を向け、また椿にその視線を戻した。
「・・・そうじゃんね。」
「だろ、雰囲気というか、なんというか。」
聞いていないようで二人の会話を耳に入れながら我愛羅は、手紙を読んでいた。
「カンクロウ。」
そして、それを読み終えた我愛羅は、カンクロウの名を読んだ。
「ん?」
「ナルトがもうすぐ着く。迎えに行ってくれ。」
「・・・わかったじゃんよ。」
カンクロウは、右手を上げてそのまま執務室から出て行った。
「なんだ、手紙に今日着くと書いてたのか?」
「いや、」
手紙には、日付もいつ頃着くとも記されていなかった。
ただ『会いに行く』その一言だけが記されていた。
「そしたら、なんで?」
「なんとなくだ。」
ナルトの気配を感じたわけでもないらしい。
「・・・まぁ、いいけどさ。それよりもさ我愛羅。」
「なんだ。」
「お前は、この花の花言葉を知ってるか?」
我愛羅は、椿をチラッと見た。
「いや。テマリは知っているのか?」
「調べてみた。」
ほら、とテマリは椿の花言葉が書かれた紙を我愛羅に渡した。
テマリの表情は、どこか穏やかだ。
そして、テマリは我愛羅がそれを読み終える前に執務室から出た。
テマリから渡された紙に書かれていた花言葉を読んで我愛羅は、誰が見てもわかる程頬を緩めていた。
カンクロウが里の入り口に着いたと同時にナルトもその場所に着いていた。
「こうもピッタリだとすげぇを通り越してなんかこえぇじゃん。」
両手をポケットに入れてじ〜っとナルトを見るカンクロウにナルトは、首を傾げた。
「カン兄(にぃ)なにブツブツ言ってるってばよ。」
「るっせぇ。名前を縮めて呼ぶな。それに俺はお前の兄ちゃんじゃねぇ。」
「カン兄は、カン兄だってばよ。」
そう言い切るナルトにカンクロウは、溜息を吐いた。
何度も繰り返される会話の内容にいい加減諦めも肝心だろうとカンクロウは、もう何も言わなかった。
「テマ姉(ねぇ)も元気?」
「あぁ。」
「じゃっさ、じゃっさ、我愛羅は?」
「会えばわかんじゃん。」
「そうだってばねぇ。」
嬉しそうに楽しそうにナルトは、カンクロウの後ろを歩いた。
カンクロウに連れられて何度も来たことのある廊下を歩く。
もう少しで我愛羅に会えると思うとナルトは、嬉しかった。
それになんだか恥ずかしいという気持ちもあった。
椿を見て我愛羅を思い出して、咄嗟にそれを贈ってしまった。
なんだか気になって椿の花言葉を調べてナルトは、顔を真っ赤にさせたのだ。
その言葉は、確かにナルトが我愛羅に対して想っている言葉だったのだ。
『大丈夫、我愛羅が花言葉なんて知ってるはずないってばよ』
知られてまずいものではない。ただ恥ずかしいのだ。
執務室に到着しカンクロウがその戸を開けた。
「ナルトを連れて来たじゃん。」
「ご苦労だったな。」
滅多に我愛羅は、労いの言葉をかけないのだがナルトが関わるとなぜか労いの言葉をかける。
「全くじゃん。」
それに苦笑しながらカンクロウは、ナルトが執務室に入ると自分は執務室から出て戸を閉めた。
『ご苦労だったな。用が済んだのなら出ていけ』
言葉にされない言葉を察しカンクロウは、溜息を吐いた。
「まぁ、我愛羅が幸せならそれでいいじゃん。」
結局のところテマリもカンクロウも末弟である我愛羅の幸せを願っているのだ。
ナルトは、目の前にいる我愛羅に嬉しそうにだけど恥ずかしそうに笑った。
「久しぶりだってばね。元気だった?」
「あぁ。」
そして、椿に気がついたナルトは。更に笑みを深めた。
「良かった。まだ落花してないのがあるってばよ。」
ナルトは、慣れた感じでソファーに座った。
「あと少しで終わる。」
「おぅ、待ってるってばよ。」
パラパラと我愛羅が捲る書類の音が部屋の中に響く。
ナルトは、我愛羅と椿を交互に見ては嬉しそうに笑っていた。
あまりにも嬉しそうに笑っているから我愛羅は、書類を捲る手を止めた。
「終わったってば?」
「まだだ。」
「?」
ナルトは、首を傾げながら我愛羅を見た。
「あともう少しだ。」
我愛羅は、再度書類に視線を戻し書類を捲り始めた。
それから数分後、終わったのか我愛羅はゆっくりと立ち上がった。
ナルトの横に座る前に椿の方に歩み寄り落花した椿を一つ手に取った。
「それ変わってるだろ。花びらだけじゃなくそのまんま散るんだってばよ。」
我愛羅の手の中に存在する椿は、落花してもなお凛として存在していた。
我愛羅は、ナルトと向かい合うように身体を向けナルトの髪に椿を飾った。
「が、我愛羅?」
我愛羅の突然の行動にナルトは、目をパチクリさせながら首を傾げる。
「その花は、お前の髪によく映える。」
金色の髪に凛とした存在を示す深い緋色の椿。
それを見て我愛羅は、目を細め頬を緩めた。
それを間近で目の当たりにしたナルトは、それはもう顔を真っ赤にさせていた。
本来ならば男が髪に花を飾られてそんなことを言われても嬉しいはずがないのだ。
だけどナルトは、嬉しかった。それはきっと相手が我愛羅だったからだ。
「そうか、ってば?」
「あぁ。」
頬を色づかせ照れながら笑うナルトの頬を我愛羅は、手で包み込んだ。
「『私は常にあなたを愛します』」
唐突に我愛羅は、ナルトにそう囁いた。
ナルトは、面白いように顔を更に真っ赤にさせて口をパクパクさせていた。
「面白い顔だな。」
「が、が、我愛羅それ・・・」
「この花の花言葉だな。」
「お、お前知って、知ってたってば?」
「先刻知った。」
にぃっと笑った我愛羅は、どう見ても凶悪だった。
「ナルト。」
「なんだってばよ。」
ナルトはもう恥ずかしくて顔を我愛羅から背けようとするが我愛羅に頬を包み込まれているため叶わない。
「『私の運命は君のもの』」
我愛羅は、ナルトの顔中に唇を落としていく。
我愛羅の運命を変えたのは、ナルトだ。
「お前は、俺のものだろう。」
我愛羅から零れる言葉にナルトは、小さく頷く。
「俺は、お前のものだ。」
「でも、我愛羅は風影だってばよ。」
自分のためにではく里のためにある存在と言ってもいいだろう。
「お前も火影になるのだろう。」
二人は、視線を絡ませた。
そして、暫しの沈黙を破ったのは、ナルトだった。
「そうだってばよ。俺ってば絶対火影になる。」
「それでもお前は俺のものだ。」
「・・・そうだってば、ね。」
「だろう。」
花が綻ぶように笑うナルトに我愛羅は、優しく口づけた。
触れるだけのそれはすぐにナルトの唇から離れる。
ナルトは、ギュウッと我愛羅の腕を掴んだ。
「何日いられる?」
「三日だってばよ。」
「そうか。」
砂と木の葉、風影と下忍、里違いに身分違い。
それでも二人が惹かれ合うのは、ごく自然なことだった。
あまり会えないのは、寂しいけれどお互いの想いが風化することはない。
「我愛羅。」
「なんだ。」
「大好き、だってばよ。」
凛と存在する深い緋色に包まれてナルトは、深く微笑んだ。
終了
平成20年1月
『椿』の花言葉は『理想の愛・完璧な魅力・誇り』などです。
赤:高潔な理想
白:ひかえめな愛
文中で使用した花言葉を知った瞬間、私は興奮してしまいました:笑