想紫苑・おもわれしおん(桔梗色・ききょういろ):神無月誕生色:イタチ←ナルト←シノ

 

 

そこは一面に桔梗と紫苑が咲き乱れている場所だった。

秋風が柔らかく吹き、桔梗と紫苑を穏やかに揺らしていた。

 

その場所でナルトは、寝転がり秋が深まる空を眺めていた。

 

 

この場所は、ナルトがイタチを見送った場所でもある。

「行くんだってばね。」

「あぁ。」

二人は互いに向き合っていた。

周りには、桔梗と紫苑の紫が夜の空間に揺れていた。

「・・・元気で、な。」

「あぁ。」

ナルトは、イタチにぎこちない笑顔を見せる。

いつだってイタチは、口数が少なくナルトが欲する言葉をくれなかった。

だけど、傍にいてくれたのは本当で、ナルトにとってはそれが真実だった。

 

それでも、血の繋がりには負けるのだ。

 

ナルトは、周りで揺れる桔梗と紫苑に視線を向けていた。

「いつだってイタチは、嘘ばっかりだってばよ。」

ナルトのためと言いながらも本音は違うところにあることをナルトは知っていた。

「愛しているよ、ナルト。今までもこれからも。」

別れを惜しむようにイタチは、ナルトの頬を手で撫でた。

その手に擦り寄りながらナルトは、穏やかに微笑む。

「本当にイタチは、嘘つきだってばよ。」

その言葉にイタチは、ただ微かに口の端を上げるだけだ。

 

大事なのは、血の繋がりなのだ。

 

紫の小波と金色のナルトに見送られイタチは、里を抜けた。

 

 

ナルトは、上半身を起こしそのまま空を見上げた。

薄い雲が通り過ぎていくのがはっきりと分かるのは月が明るいからだ。

毎年、ナルトはイタチを見送った日にこの場所を訪れていた。

それを知っているのは、誰もいない、はずだった。

「シノ、なにしてるってば?」

ナルトは、空を見上げたままだ。

ナルトに名を呼ばれたシノは、音も気配もなくナルトの隣に現れた。

そして、そのままナルトの横に座った。

夜でもサングラスをしているシノも空を見上げた。

「ずっと待つつもりか?」

主語のない言葉だったがナルトには通じていた。

「そう、だってばね。」

ナルトは、普段見せない表情で笑っていた。

「想うのも待つのも俺の勝手だから。」

ナルトにとってのイタチは、安らぎであり温かさであった。

しかし、それは全て血の繋がった弟のためだったのだ。

いや、最後に行き着くところは結局イタチ自身のためだったのかもしれない。

「お前がそれでいいなら、それでいいのだろう。」

シノは、いつだって静かにナルトの欲する言葉を差し出す。

気がつけばナルトの傍にいて、ナルトもシノが傍にいることを許している。

シノは、ナルトが誰を想っているのか知らない。

シノは、それでいいと思っている。

ナルトが空からシノに視線を向けた。

シノの周りでは、桔梗と紫苑の紫が揺れている。

その光景にあまりにもシノが溶け込んでいて、思わずナルトはシノの手に自分の手を重ね握った。

その瞬間に、ナルトはサングラス越しにシノの視線と絡み合った。

「あっ、わりぃ。」

握った手を離そうとしたがその上からシノが手を重ねてくるものだから離せなかった。

「シノ?」

「忘れられないのだろう?」

シノの言葉にナルトは、小さく頷いた。

久しぶりに再開した時も、イタチは血の繋がった弟の『強さ』を心配していた。

視線はナルトにあるのに、常に見ていたのは血の繋がった弟だった。

それでもナルトは、イタチを慕っていた。

「結局あの人は、俺を見てないんだってばよ。」

ナルトは、シノから視線を反らし一面に咲き乱れる桔梗と紫苑を眸に映した。

「それでも、俺は忘れられない。俺ってば女々しいな。」

月の光は、ナルトの寂しげな表情を浮き彫りにしていた。

そんなナルトをシノはジッと見ていた。

普段は、馬鹿がつくくらい騒がしく明るいナルトだがシノは、時折ナルトが見せる陰った表情が気になっていた。

ナルトがこの場所に来ていることも数年前から知っていた。

きっと、ナルトもそれを知っていたはずだ。

今回初めて名を呼ばれシノは、傍にいることを許されたのだと思った。

「ナルト。」

「なんだってばよ。」

「俺は、どこにもいかない。」

静かにだけどはっきりとシノは、ナルトに向かってそう言った。

 

穏やかに吹く秋風が二人の頬を撫でていく。

 

シノにそんな言葉を言われながらもナルトは『あの人は今なにをしているだろう』と思う。

それでも自分の存在が誰かの心にあるというのはナルトにとって嬉しいことだった。

どんなに傍にいてくれても、優しくされても、その眸に自分が映っていなければ寂しいものだ。

「シノは、俺の傍にいてくれるってば?」

「あぁ。」

シノの言葉を素直に嬉しいとナルトは感じていた。

しかし『イタチの言葉は、いつも優しくて残酷だったな』という思考がナルトの脳裏に過ぎる。

いつだってイタチの言葉は『嘘』ばかりだった。

それでもナルトとってイタチの言葉が嬉しかったのも事実なのだ。

「俺から離れていかない?」

「あぁ。」

イタチにとってナルトは、血の繋がった弟の『強さ』への布石に過ぎない。

そんなことは、ナルトは分かっている。分かっているのだ。

「桔梗と紫苑が・・・綺麗だってばよ。」

「お前によく似合う。」

「はぁ?似合うのはシノだってばよ。」

「いや、お前だ。」

シノは、ナルトの金糸を手でさらっと梳いた。

柔らかなナルトの金糸は、シノの指の間をすり抜けていく。

「よく映える。」

それは、ナルトの金糸に対しての言葉だ。

 

紫に包まれた辺り一面は、月の光によって鮮やかな色合いを見せていた。

 

終了

平成1910

紫苑の花言葉は『遠方にある人を思う・思い出・君を忘れない・追憶』などです。

桔梗の花言葉は『変わらぬ愛・気品・誠実・従順』などです。

 

ナルトは、本当に桔梗と紫苑が似合うのはイタチだと思ってます。