恋染紅葉・こいそめもみじ(朱色・しゅいろ):霜月誕生色:ネジ×ナルト
山の奥から色づき始めた紅葉は、もう山のふもとの方まで赤く朱色に染まっていた。
山から里に流れ着いた数枚の紅葉がゆっくりと川を流れていく。
それに気がついたナルトは、その紅葉に目を奪われその場に立ち止まった。
もう陽は沈みかけで辺りを照らすは、残照のみである。
その紅葉から一転してナルトは、山に目を向けた。
「・・・綺麗、だってばよ。」
ナルトは、それに見とれた。
遠くの山に彩る紅葉は残照に映え、それはまるで本当に山が燃えているかのような錯覚をもたらす。
過ぎていく時間をも忘れナルトは、その場に長いこと立ち止まっていた。
「なにをしている?」
ナルトは振り向かず、暗闇になりもう見えない紅葉をまだ見ていた。
「紅葉を見てた。」
「もう暗くて見えないだろう。」
「そう、だな。」
ナルトは、やっと振り向き自分の背後にいたネジに向かって笑った。
「どうした。やけに嬉しそうだな。」
「んっと、ネジ。」
「どうした?」
「傍に寄ってもよい?」
いつもナルトは、ネジの傍に寄る時にそう聞く。
聞かなくともよい、とその度にネジも言っているのだが相変わらずナルトは聞いてくるのだ。
「あぁ、こい。」
ネジに手招きされナルトは、更に笑みを深くしてネジに歩み寄る。
そしてナルトは、ネジの黒髪に手を伸ばした。
さらりとネジの艶のある髪がナルトの指をすり抜ける。
「やっぱりネジの髪に紅葉は、よく映えるってば。」
あの時から、いやその前からナルトは、ずっとそう思っていたのだ。
いつからかナルトとネジは、時間が合えば二人で修行をするようになっていた。
あれは1年ほど前のことだろうか。
ナルトは、珍しく修行中に休憩を取りネジの修行している姿に魅入っていた。
ネジの周りには、ハラハラと色づいた紅葉が舞い落ちていた。
辺りは、夕暮れが近いせいかもう薄暗くなっていたが紅葉は鮮明にナルトの眸に映っていた。
『やっぱり綺麗だってばよ』
ナルトは、ずっと思っていたのだ。
ネジの漆黒の髪は、紅葉の朱を更に際立たせている。
朱色の紅葉が舞い落ちる中、ネジはまるで静かに舞っているかのような動きをする。
手や足の先、身体の神経全てが研ぎ澄まされ、その場だけがまるで切り取られたかのような光景からナルトは目を離せない。
ずっとネジを見つめていたナルトにネジが段々と近づいてい来る。
「もう暗い。今日はこの辺にしておくか。」
「そうだってばね。」
ナルトは、勢い良く立ち上がった。
「ネジ?」
立ち上がったナルトをネジは、無言で見ていた。
「どうしたってば?」
「あぁ、なんでもない。」
あの時から、いやその前からネジは、ずっとそう思っていた。
「ナルトの髪の方が、紅葉がよく映えると俺は思うが。」
「はぁ、俺?」
「あぁ。」
ナルトは、自分の前髪を指で摘まみながら上目使いで見てみる。
「そっかなぁ。」
「綺麗だ。」
ネジは、ナルトを抱き寄せ静かにナルトの髪に唇を寄せた。
「ネ、ネジ!」
「どうした?」
ネジは、それがまるで自然かのようにいつもナルトに触れる。
ナルトは、それがなんだか恥ずかしい。
「お前って、いつもなんか行動が恥ずかしいって。」
「そうか?俺は触れたいから触れているだけだが。ナルトは嫌か?」
再度ネジは、ナルトの髪に唇で触れ、そのまま唇をナルトの目尻に寄せた。
ピクッと身体を揺らしたナルトの頬は、まるで紅葉のように染めあがっている。
「・・・嫌じゃない。」
その言葉に、ネジは機嫌を良くしそのままナルトの唇を自分の唇で塞いだ。
激しいものではなく触れるだけのものだった。
だが、それだけでもナルトの胸は高鳴り眸は潤む。
二人は、そういった軽い触れ合いが日常になっていた。
だが、想いは伝え合ってはいない。
「ネジ。」
「なんだ。」
ナルトは、ずっと考えていた。
どうしてネジは、自分にこういったことをするのか。
どうして自分は、ネジのこういったことを許しているのか。
紅葉が段々と朱色に染まっていくようにナルトの心も染まっていた。
それは、言葉にすると恥ずかしいけど『恋』というものだとナルトが自覚したのはつい最近のことだ。
「どうして、こういうこと俺にするってば?」
「ならば、どうしてナルトは俺にこうされることを許してる?」
「質問に質問で返すなってば。」
ネジは、ナルトの言葉に苦笑する。
「それは悪かった。」
そう言って、ネジはナルトの頬を手で撫でた。
「俺は、臆病だからな。」
「はぁ?ネジは臆病なんかじゃないってばよ。」
「俺は臆病なんだよ。特にナルト、お前に関してだと余計にだ。」
ナルトの頬を撫でながらネジは、また苦笑した。
「ネジ?」
「ナルト、俺はお前が好きだ。愛してる。」
ネジは、『好きだ』とナルトの目を見て言い、『愛している』とナルトの耳元で低く優しい声で囁いた。
ずっと、ずっと前からネジはナルトが好きだった。
だが、ずっと、ずっと言葉に出来ないでいた。
傍にいられるだけで、触れられるだけでいいと思っていた。
だけど、ナルトに『どうして』と問われれば逃げる術はない。
いや、ナルトにそう聞かれれば逃げないとネジは決めていたのだ。
「ネ、ネジ。」
ナルトは、ギュウッとネジの胸辺りの服を掴んだ。
「お前の言葉を欲してもいいだろうか?」
ナルトは、ネジを見つめた。
ずっと考えていた答えをネジが今くれたのだ。
だからナルトは、恥ずかしそうにだけど満面の笑みをネジに見せた。
「いいってばよ。いいに決まってるってば。」
「そうか。」
「ネジ、俺もネジが好きだ。」
ナルトがそれを言い終えるのと同時にネジは、ナルトを力いっぱい抱き締めた。
二人の傍を流れる川には、紅葉が数枚ゆっくりと流れていた。
終了
平成19年11月
紅葉の花言葉は『節制・遠慮・自制・大切な思い出』などです。
ネジ兄さんは、情熱家だと私は思います。
ナルトが恥ずかしいと思う言葉を恥ずかしげもなくナルトに囁くネジ兄さんです。