気分爽快?
ナルトは、座り込んで太股に肘を乗せて手に顎を乗せて小高い丘から里を見渡していた。
―――ゴォ〜ン、ゴォン
どこからか鐘の音が響いてくる。ナルトは、その音がどこから聞こえてくるものかわかっている。
里全体を見渡している様でナルトは、その場所をその建物だけを見つめていた。
「行かないのか?」
ナルトが来るだろうと予想していた人がナルトの背後に立つ。
ナルトは、振り向きもせずボソリと呟いた。
「もう少ししてな。」
ナルトは、今年で十八歳になる。もう、子供の頃の話し口調ではない。
「それに、先刻まで任務だったしさ。」
ナルトが苦笑しながら自分の身体を指差した。
ナルトが着ている服は、暗部に支給される服である。
ナルトの忍としての努力は、年齢を重ねると共に内に秘めたる才能をも開花させていったのである。
「お前が、志願してその日に任務をいれてもらったのだろう。」
そう、次の日が今日だと知っていてナルトは、任務を入れてもらったのだ。
間に合わなければそれでいいと思いながら任務は考えていたよりも簡単なもので間に合ってしまった。
「『任務が予想以上に長引いてさ』そう言うつもりか?」
「・・・もう少しして行く。先に行けよ、ネジ。」
自分に付き合う必要は無いと言うナルトは、ネジに背中を向けたままで表情を見せない。
「お前は、本当に不器用だな。」
「お前もだろ。」
「違いない。」
二人は、浅く笑った。
暫くしても一向にそこから立ち去ろうとしないネジにナルトは、深いため息と共に身体の向きをネジの方へと変えた。
ネジは、腕を組み凛とした雰囲気を漂わせながら静かに其処に存在していた。
そして、ネジの服装にナルトは、苦笑した。
「・・・お前も着替えてないのかよ。」
「お揃いだな。」
ネジの口の端が微妙に上がった。ネジの態度が穏和になったのは、いつ頃からであろうか。
それがナルトの所為だとナルト自身は気がついていない・・・
否、気がついていない振りをしているだけかもしれない。
ナルトは、自分の服に付いた土埃を叩き落としながら立ち上がり、ネジの方に足を進めた。
そして、ネジの横を通り過ぎながら口を開いた。
「着替える。」
その言葉にフッと短く息を吐きネジは、一瞬にして消えたナルトの後を追った。
ナルトは、白いYシャツの袖に腕を通しながらもうすぐ着替えを終えようとしているネジを見た。
「どうして、お前が此処で着替えてんの?ていうかなんで俺の家にお前の着替えがあんだよ。」
ネジは、そんな事はどうでもいいのか時計を見て一言。
「ナルト、急がないと終わってしまうぞ。」
「・・・わかってる。」
ナルトは、窓から鐘の音が鳴り止まない方向を見つめた。
その眸は、どこか揺れていてナルトの着替える手は止まってしまっている。
「わかっていないな。」
自分の着替えを難なく終了させたネジは、仕方ないとばかりにナルトの着替えを手伝い始めた。
ナルトは、ネジにされるがままでジッとしている。その視線の先は、鐘の音が鳴り響く教会だ。
「諦められないか?」
ナルトのYシャツのボタンをゆっくりととめていくネジの言葉に動揺するでなくナルトの表情は変わらない。
「諦めるも何もあいつは、俺の大切な友であり仲間だ。何を諦める。」
「自分の心に閉じ込めて、一生言わないつもりか?」
ネジは、スーツの上着をナルトの腕に通しタイを締めていく。
「ネジ、お前人の話を聞いてるか?あいつは、友であり仲間だ。それ以上には成りえない。」
ネジは、ナルトの着替えを終了させ最後にポンポンと肩の埃を払った。
そして、腰付近まで伸びている金の髪にソッと触れた。
「髪・・・伸びたな。」
ネジは、ナルトがここまで髪を伸ばした理由を知っている。
『お前の髪、綺麗だよな。伸ばせば?』
あいつにとってそれは、ほんの気まぐれの言葉だったに過ぎない、と喉まででかかっている言葉をネジは、いつも飲み込んでいた。
ナルトは、そんな他愛のない言葉を受け止め今まで髪を伸ばしているのだ。
「そうだな。」
人差し指で髪をクルクルといじりながら何を思ったかナルトはいきなりクナイにチャクラを込めそのまま首の根元くらいからバサリと髪を切った。
長い金糸がハラハラと床に舞い落ちていく。
「なにを?」
滅多に驚く事のないネジが目を見開きナルトに魅入った。
そんなネジの様子にナルトは、悪戯が成功した時の様な笑顔を魅せた。
そして、ナルトの手には自分の今しがた切った髪が握られている。ナルトは、眸を細めその存在を見た。
「あいつへの余分な想いは、この髪に持って逝ってもらうさ。」
ナルトがそう言って儚く微笑むとその髪は、蒼い炎に包まれ跡形もなく消えた。
「うっし!ほいじゃ、行くか、ネジ。・・・ネジ?」
呆然としているネジをすっきりとした顔のナルトが覗き込む。
ナルトの蒼い眸は、深くそして力強い光を宿していた。
それは、ネジが好ましいと想うナルトの本来の眸であり、もう完全に吹っ切ったという証拠でもあった。
そんなナルトの眸をネジが見たのは何年振りだろうか。
ナルトとネジは、暫くの間見つめ合った。そして、ネジはナルトを自分の方に引き寄せ抱き締めた。
「ネジ?」
ナルトの短くなった髪を優しく撫でる。
「もう少し、ちゃんと切り揃えた方がいいだろう。」
ネジの手が優しく温かく撫でるから、ナルトは何も言えなくてそのまま小さく頷いた。
ナルトの髪に触れるネジの手は、温かい。
「ネジの手は、心地良いな。」
「そうか?」
まだ、他人に触れられることにあまり慣れていないナルトであったがネジは、違う。
いつからか気がつくといつもナルトの傍にネジはいた。
「ずっと触れていてもらいたくなる。」
「お前がそう望むなら触れていてやる。」
「ネジ。」
「なんだ。」
「・・・ありがとう。」
ナルトは、なんだか目尻が熱くなるのを感じた。
ネジの気持ちを知っていて気づかぬ振りをし続けてきたナルトをネジは、ずっと傍で見守ってきたのだ。
ナルトが一人で立ち上がれない時、ネジは静かに手を差し伸べた。
ナルトは、自ら手を伸ばしてくるような子ではないからネジは、伸ばされる手を待つよりも自分から手を差し伸べたのだ。
その手を拒否されてもネジは、諦めなかった。
「ナルト。」
ネジが愛しい者の名を囁く。
「なに?」
「俺がずっとお前の傍にいてやる。」
そして、昔のように短くなったふわふわの金の髪にネジは、口付けた。
ナルトは、ネジのその行為にくすぐったいと身をよじりながらも素直にその行為を受けていた。
ナルトとネジが教会に着いたのは、もう終盤に差し掛かった頃であった。
「ナルトおそ・・ってあんた髪どうしたの?」
サクラが、驚きの声をあげると出席していた全員がナルトを見た。
それこそ主役二人は、そっちのけでナルトに駈け寄ってきた。
「切った。」
照れたように頬を仄かに染めふにゃ〜っと笑うナルトが少し前に任務で人を殺しているとは到底思えない。
ナルトのそんな表情を横目に見ながらネジは、内心ため息をついていた。自分以外の人にそんな顔を見せて欲しくないと常々そう想っているのだ。
ナルトが今目の前にいる奴を吹っ切った以上ネジは、今まで以上に本気でナルトを口説くことを固く心に誓った。
自分の世界に入ってしまったネジの横でナルトが満開の笑顔でお祝いの言葉を放った。
「結婚おめでとう、シカマル!」
終了
平成16年6月1日