夏の蒼空

 

 

地上から立ち昇るかの如く入道雲が空を占拠している。

雲が出ているからといっても涼しいわけがなく雲の間から覗く蒼い空と太陽がより暑さを演出していた。

 

―――――ミーン・ミン・ミン・ミン

―――――シャワシャワシャワ

―――――ツクツクホーシ

 

かなりの種の蝉が人生を精一杯謳歌しているが、人が聞けば暑苦しいだけである。

 

―――――カナ・カナ・カナ

 

蜩が鳴けばまだ涼しさを感じられるのかもしれないが時期的にまだ早い。

 

「あちぃな。」

 

長い黒髪を頭の上で一つにまとめている男がボソッと呟いた。

 

「そう?」

 

短髪の金髪だが前髪が鬱陶しいのかピンでとめている男が軽く返す。

 

「お前、暑くねぇの。」

「ん〜、俺結構体温低いんだってば。」

「信じられねぇ。」

 

窓際に座っている金髪の子・・・

即ちナルトは、どう考えても体温が人よりも高いように思われる子である。

 

「ちょっとこっち来い。」

 

内輪を扇いでいた手を止め黒髪の子・・・

即ちシカマルは、椅子を跨ぎ背もたれに胸をつけナルトに向って両手を広げ手首を動かした。

 

「シカマルが動けってば。」

「めんどくせぇ。それに動くとあちぃだろ。」

 

シカマルのいつもの口癖にナルトは、しょうがないとばかりにその場から立ち上がった。

 

―――――ブーン・ブーン

 

 規則正しい動きの扇風機の音が静かに響いている。

 

―――――チリ〜ン

 

窓から忘れた頃に吹く涼しいといえない風が吊るされた風鈴を鳴らす。

ナルトの住んでいる部屋の周りは、ナルトが育てた植物が生い茂っており幾分が涼しく感じる。

 

「なんだってばよ?」

 

シカマルの前まで来たナルトが首を傾げた。

シカマルは、椅子を跨いでいた足を揃えて椅子に対して横向きに座り直した。

そして、また先刻と同じ様にナルトに向って両手を伸ばした。

 

「暑いんじゃなかったってば?」

 

シカマルの行動にナルトは、頭に?マークを飛ばしている。

 

「確かめるだけだ。」

 

シカマルに促されるままナルトは、シカマルの首に腕を廻した。

そして、シカマルの腕は、ナルトの腰に廻された。

 

 

―――――ギュウッと抱き締め合うこと数分間

 

 

ナルトの首筋に顔を埋めていたシカマルが顔を上げた。

それと同時にシカマルの髪に顔を埋めていたナルトは、顔をそのままに身体の体重を少し移動させた。

 

 

―――――暫し見つめ合うこと数秒間

 

 

―――――ブ〜ン・ブ〜ン

 

 

扇風機から生み出される風が緩やかに二人を包み込んでいる。

 

「暑くねぇの?」

 

普段あまり汗をかかないナルトだがシカマルの肌と密着している肌が汗ばんできている。

 

「あちぃな。」

「じゃ、離れるってば。」

 

しかし、ナルトの身体がシカマルが離れることは出来なかった。

 

「シカマル、暑いんだろう?」

 

ナルトの腰に廻されているシカマルの腕が先刻よりも強くなっている。

 

「お前本当に体温低かったんだな。」

「何?信じてなかったってば?」

「あぁ。」

 

自分よりも低い体温が気持いいのか、

はたまたナルトの感触が気持ちいいのかシカマルは、

自分の腕からナルトを離そうとはしない。

 

「いつもは、熱を帯びている時に触れてるからな。」

 

どうやら、シカマルは、ナルトが気持ち良いらしい。

 

「お前って頭いいのに、馬鹿だってばよ。」

「馬鹿で結構。俺は、ナルト馬鹿だからな。」

 

 シカマルの言葉に途惑うような表情を見せるナルトだがその頬は、仄かに色づいている。

 

―――――チリ〜ン

 

 風鈴の音が暑い部屋をほんの少しだけ涼しくしてくれる。

 

「シカマル。」

「ん?」

「暑いんだろう。」

 

 普段あまり汗をかかないように思われがちのシカマルだが実は、汗かきだ。

 

「暑いな。」

「我慢しないで離れようってば。」

「ナルト・・・。」

「何だってば?」

「そんなに俺から離れたいのか?」

 

シカマルは、どこか寂しげにナルトを見つめた。そんなシカマルにナルトは焦る。

 

「ち・違うってば。俺は、シカマルとこうしてても大丈夫だけど・・・シカマルは、暑いんだろう。」

 

今度は、ナルトが寂しげな表情をした。

 

「ナルトがいいんならいい。」

 

シカマルは、そう言って再度ナルトの首筋に顔を埋めた。

 

「ならさ・・・せめてもう少し涼しい場所に行こうってば。」

 

返事の代わりにシカマルは、そのままの状態で立ち上がった。

 

「ちょ・・・シカマル降ろしてってば。」

 

抱っこされた状態で立ち上がられたナルトは、かなり焦っている。

 

「大人しくしてろって。」

「だって・・・」

「だって、じゃねぇ。」

「うん。」

 

自分の腕の中で大人しくなったナルトを確認してシカマルは、歩きだした。

扇風機のスイッチを足で押して切りシカマルは、足を進めた。

 

 

 

 

二人が着いた場所は、

中庭でナルトが世話をしている植物たちがきつい日差しを遮っていて、

森林浴に似た心地良い雰囲気を醸し出していた。

 

「よくわかったってばね。」

「お前ん家で一番涼しいっていったらこの場所だろ。」

 

この場所は、表からもナルトの部屋からも存在がわからないようになっている。

此処は、ナルトの秘密の場所なのだ。

シカマルがこの場所に入れたということは、限りなくナルトがシカマルに心を許しているということなのだ。

 

「濡れてるな。」

「シカマルが来る前にた〜っくさん水を浴びさせたってばよ。」

 

微かに揺れる様な風でも、植物が濡れているからか部屋に吹く風とは、似て非なるものがある。

 

「だから、お前髪が少し濡れてたのか。」

「ふぇ、そう?」

「今も少し濡れてる。」

 

シカマルがナルトの髪に顔を埋めるとナルトは、

こそばゆいのか照れくさいのかクスクスと笑いながら身を捩った。

ちょうど中心に小さなテーブルと椅子がある。

シカマルは、ナルトを抱っこしたままその椅子に座る。

なんだか蝉の声でさえ心地良く感じるのは、気のせいではないのだろう。

今、シカマルの目の前には、腕の中には、ナルトがいる。

そして、ナルトの目の前には、シカマルがいる。

こうして二人でいられるという事実が嬉しくて二人は、お互いに微笑む合う。

生い茂った植物の向こう側では、蒼い空に入道雲が散乱し始めていた。

そして、蒼い空は、紅い空へと変貌を遂げようとしている。

二人は、軽く唇で互いの唇を啄ばみながらその変貌に色を変えるお互いを眸に映していた。

 

「シカマル、帰らないと・・・」

 

自分は、一人だけどシカマルには家族がいる。

ナルトは、シカマルを抱き締める腕を緩めた。

 

「ナルト。」

「ん・・・んぅ・・」

 

シカマルの声は、どこか艶を含んでいていきなりナルトを深く誘い込んだ。

 

「んぁ・・・シカ・・・マル?」

 

銀の糸が紅く反射するのを横目にシカマルは、唇をナルトの唇から離した。

 

「今日は、泊まる。」

 

―――――ミン

 

どこかで鳴き足りない蝉の声がした。

 

 

終了

平成17年8月12日