咲き誇れ
今日もナルトは、深い禁忌の森へと足を踏み入れていた。
禁忌の森には、誰も近寄らない。だから、ナルトはこの森が好きだ。
ナルトは、ほぼ毎日人の気配の無いこの場所で森と同化するように刻を過ごしていた。
「今日もいる。」
ナルトの視線の先には、鍛錬を積む者がいた。
ナルトがその人を見つけたのは数日前だった。
深く広い禁忌の森には、まだナルトの知らない場所もある。
人の気配が珍しくてナルトは、その気配がする方に足を向けた。
そして、見つけたのだ。
激しく自分を追い込み、限界を超えても尚限界を引き出そうとするその人を見つけたのだ。
「綺麗。」
白い眸に映える静かな黒髪が身体の動きに従って揺れる姿にナルトは、魅入った。
穏やかな刻を過ごすために訪れていた森。
今は、その人を見るためにナルトはその森を訪れている。
ナルトが見ていることにその人は、気がつかない。
それは、当然のことなのだ。ナルトの気配は、森に溶け込んでいる。
森に足を踏み入れれば、ナルトの意思に関係なくナルトの気配は薄れていくのだ。
実際ナルトは、その場にいてもいないように感じられるくらい完璧に気配を消すことが出来る。
それは、生きていくために身についたものだ。
感じる憎悪・突き刺さる言葉・いわれの無い暴力
ナルトは、その人と遠い自分を重ねて見ていたのかもしれない。
膝を抱えて泣くだけでは、何も変わらないのだと幼いナルトは判断した。
強くなろうと思った。
どんなに困難な状況になっても負けない壊れない心を持とうと思った。
そして、ナルトは、どんなに人に笑われても蔑まされても否定されても自分の選んだ道を
歩むことを決めた。
「悲しいね。」
ナルトは、小さく呟いた。
ずっと、見てきたその人の眸は強さだけを求めていた。
強さだけを求めては、強くなれない。
強さだけを求めれば求める程、心が見えない鎖に縛られいつしか心が消える。
それは、忍にとっては理想なのかもしれない。
「そんなのは、違う。」
ナルトは、忍だからこそ心が必要なのだと感じていた。
人を殺めてしまうのは、忍として生きることから逃れられない。
只、ナルトは、人を殺めることに慣れてしまってはいけないと思っているのだ。
人を殺めるということは、その人の心を道を絶つということに他ならない。
だからこそ、ナルトは自分の選んだ道を曲げない。
人を殺めるごとに重くなる身体を地面に足をしっかりとつけて支えて進むのだ。
本当は、見ているだけのはずだった。
だけど、その人の白い眸が悲しげで憎しみを宿していて見ていられなくなった。
いつか、その人自身までもが壊れてしまいそうで思わずナルトは、飛び出していた。
「もう、止めた方がいいってば。」
ナルトは、地面に打ちつける血が滲むその人の拳を止めた。
気配なく現れたナルトを、その人は驚愕の眸で見つめていた。
「・・・離せ。お前には関係ないだろう。」
しかし、その驚きも一瞬ですぐさまナルトの手を振り解こうとした。
「俺は、強くならなければならない。」
白い眸に宿る意志は、強さに囚われているようだった。
「どうして?」
どんなにその人がナルトの手を振り解こうとしてもナルトはビクともしない。
自分よりも幼く細いナルトの力にその人は、苛つき始めた。
「強さを求めるのに理由など無い。」
その言葉にナルトの顔が悲しく歪んだ。
「自分を痛めつけて限界を超えて強くなったと錯覚してそれで満足?」
静かな水面に一滴落ちてスゥ〜っと波紋が広がるようにナルトの声が静かに響いた。
その人の拳を握る手にゆっくりと力が込められる。
緩やかに流れ出る怒気にその人の身体が揺れた。
「強さを誇示してそれで満足?」
冷たくひどく悲しげに細められた蒼い眸が白い眸を見据えている。
「逆らえない血に抗うには、強さしかない。」
その言葉に、ナルトは確かにと思う。
「だけど、その強さだけでは強くなれない。」
現に俺から逃れられないだろうとナルトは、その場に似合わないような穏やかな笑顔を向けた。
その人は、押し黙り唇を噛んでいる。
薄っすらと唇に滲む血がよりナルトを悲しくさせる。
「だから、そんなに自分を痛めつけないでってば。」
ナルトは、極自然にその人の滲んだ唇を舐めた。
その行動にその人が固まるのは、当たり前といえば当たり前だろう。
「な、な、なにをする!」
「血が出てたから舐めただけだってばよ?」
何がいけないのかと逆に問われてその人は、脱力した。
「本気で言っているのか?」
「傷は舐めれば治るんでしょ、違うの?」
「普通他人の傷は、舐めん。」
「そうなの?」
先刻までの殺伐とした雰囲気など感じさせないナルトにその人は、不思議な感覚を覚えた。
「お前は、なんなんだ。」
「ネジってば、俺のこと知らないんだ。」
いきなり自分の名前を呼ばれてネジは、眸を見開いた。
「アカデミーで同じクラスだってばよ。」
「本気で言っているのか?」
「本気だってば。」
ナルトは、面白そうにクスクスと笑っている。
ネジは、自分よりも弱い者は眼中にない。
だから、当然ドベであるナルトの存在を知るはずもない。
だが、今ここにいるナルトはどうだ。
ネジを押さえ込みネジは、それを振り解くことが出来ないでいる。
「ネジは、強くなりたい?」
「あぁ。」
「俺ってば、こう見ても強いってばよ。」
「そうみたいだな。」
どこからそんな力が出るのかとネジは、ナルトの細い身体を眺めた。
「だから、一緒に修行しようってば。」
ナルトは、ネジに強さだけを求める人になって欲しくなかった。
目の前の憎しみに囚われて壊れて欲しくなかった。
―――――囚われて抗って壊れながら生きていくのは自分だけでいい
それは、ナルトの奥底に眠る静かな言の葉。
強く生きることそして、強い心を持つことを決めたナルトの想い。
ナルトは、ゆっくりとネジを解放した。
「俺は、うずまきナルト宜しく。」
そして、ナルトはネジに手を差し出した。
その手を見つめ、ネジは口を開いた。
「ナルト、俺は強さを求める。」
続く言葉にナルトは唇の両端を上げた。
「それが、俺の誇りだからだ。」
そして、ネジはナルトの手をとることなく立ち上がった。
―――――誇りに羞じない強さを
ネジは、いまだ差し出されているナルトの手から視線を外していない。
「ネジは、まだまだ強くなれるよ。」
「・・・当然だ。」
そして、二人は握手を交わした。
終了
平成16年11月16日