月と影 十
ナルトは、身体にロープを巻きつかせ火影岩の落書きを丁寧に消していた。
「毎度、毎度よくやるよな。」
その様子を胡座をかきそして片手に顎を乗せているイルカが見守っていた。
今は、夕刻だがまだ明るい。
本当ならロープなどつけずに作業した方が容易いのだがそんなことは、出来ない。
「どうせなら、消す時も真夜中にすりゃいいのに。」
イルカがポツリと呟くとナルトは、苦笑する。
「ハハッ、俺が消すのを里人が見ることに意味があるんだってばよ。」
「それなら、なんで描くのは真夜中なんだ?」
表上文句を言いながら作業を進めているナルトに、イルカが問うた。
「それはさぁ、途中で誰かに止められたくないからだってばよ。」
ナルト曰く、火影岩に描く落書きは、一気に仕上げたいものだそうだ。
例え、次の日に消すことになっても惜しまずに消すことが出来るように精一杯心
を込めて落書きしているのだそうだ。
「尊敬してるもんな。」
「うん、尊敬しているよ。だから、今はまだ落書きさせてもらう。」
ナルトが大きな悪戯をする度に里人は、『あの子は、おちこぼれだ』と安堵する。
九尾を恐れて恨んでナルトを邪険にする里人は、自分よりもナルトを下に見るこ
とによって安心感を得ているのだ。
ナルトは、里人が安堵する方法で自分の存在を里人に知らせている。
「もう、そろそろだな。」
「そうだってば。」
「お前もとうとう卒業か。」
「イルカ先生は、まだ教師続けるの?」
「そうだな・・・結構子供相手も楽しいしな。」
「イルカ先生は、教師に向いてるってば。」
「どうも・・・お前に先生と呼ばれるのに慣れないな。」
「なに言ってるってばよ。もう何年も呼んでるのに。」
ナルトは、クスクスと笑いながら手際よく落書きを消している。
蒼い空が夕焼けに染まっていく中でナルトの金髪がオレンジ色に輝き出す。
『いつ見ても綺麗な色だ。』
イルカが、初めてナルトに会った時もそんな髪の色をしていた。
「大きくなったな。」
「イルカさんってば親父っぽいってばよ。」
「俺は、まだ二十代だ。」
「知ってるってばよ。」
イルカは、ナルトの成長を見守っている人たちの中の一人である。
ナルトのためにアカデミーの教師になることを決めた。
「これが終わったら一楽でも行くか。」
その言葉にナルトは、大きな眸をより大きくさせた。
「本当!奢りだってば?」
「お前・・・俺より金持ってるくせに。」
「暗部で稼いだお金は、全部じっちゃんに握られてるってばよ。」
ナルトに渡されるのは、月々の生活費のみである。
「ったく、しょうがねぇな。」
「そんじゃ、早く終わらせるってばよ。」
ナルトは、微妙にだが身体の動きを早めた。
『ナルトの手料理の方がうめぇんだけどな。』
イルカにしてみればナルトの手料理が食べたいのだが、ナルトは自分で作った
料理よりも一楽のラーメンの方が好きなのだ。
「そういや、お前シカマルと仲良くなったんだな。」
「うん。」
イルカは、シカマルにプリントを預けて良かったと思った。
きっと、家には入れないだろうと予想はしてた。
しかし、聖と会うことまでは、予想出来ていなかったみたいだ。
「イルカさんが、頼んだんでしょう。」
「あぁ。」
「ありがとう。」
「俺は、キッカケを与えたに過ぎないさ。」
ナルトは、極力自分から他人に話しかけるのを避けている。
挨拶は、別問題だ。ナルトは、聖に挨拶の必要性を十分に躾られていた。
だから、ナルトは、よく騒いでいるが必要最低限のことしか他人と話さない。
だから、他人と仲良くなるのはすごく難しいことだった。
それでも、ナルトは、シカマルが気になっていたのだ。
「あいつって頭良いってば。」
「そうだな・・・成績は悪いが頭は良いな。」
「気がついているはずなのに何も言わないってば。」
そんな優しさが嬉しいのだとナルトが頬を緩ませた。
「聞くのがメンドクセーなんだろ。」
シカマルの口癖を真似るイルカにナルトは、更に笑う。
「そうかも。」
「ネジに報告しておけよ。後々知ると機嫌が悪くなるからな。」
日向ネジは、ナルトの教育係兼兄的存在である。
しかも、かなりの過保護ときている。
「うん、今暗部の仕事に行ってるから帰ってきたら言うってばよ。」
そんなこんなで話している内に作業は終了した。
「さぁ〜って、ラーメンだってばよ。」
年相応に喜ぶナルトをイルカは、穏やかな眸で見ていた。
続く