月と影 十二
ナルトが昼間にそんな所を歩いているのは珍しいことだ。
そこは、里でも一番のにぎやかな通りだ。
大概の大人は、無視するかチラチラと見ては陰口を囁く。
性質が悪いのは、むしろ子供らでおもむろに態度と言葉で月に陰りを落とさせる。
この里で金髪は、かなり珍しい類だ。
その神々しさは、『月の光』を思わせる。
まぁ、人によっては『太陽の光』と捉える人もいる。
だが、本当のナルトを知る者は『月の光』と捉えるだろう。
それほどまでにナルトは、優しく儚い子なのだ。
しかし、里の人々の中でそう捉える人は少ない。
金髪=ナルト=九尾=忌み者
元々九尾とて神々しいはずなのだ。
一体何がどうしてこうなったのか。
それは、誰にもわからない。
―――――ヒュン・・・ガッ
子供が投げた石が見事にナルトの米噛みに当った。
避けられるはずなのにナルトは、あえてそれをその身に受ける。
「あんなのも避けられないのか。」
「マジだせぇ。」「ナイスコントロール。」
そうして大人は安堵し、子供は歓喜そして罵倒する。
歩き続けるナルトの米噛みには、赤い血が滲んでいる。
自分たちと同じ赤い血が流れていることに見向きもせずにそれは、続く。
ナルトは、ただただ前を向いて歩く。
「ちょっと大丈夫!」
無表情に少しの辛さも表に出さず歩き続けるナルトの肩を誰かが掴んだ。
「そいつに関わらない方がいいぜ。」
優しい(?)里人がナルトにも聞こえるように声を吐き出す。
「見せてみなさい。」
そんな言葉どころか里人さえも無視してその人は、ナルトを立ち止まらせる。
そして、膝をおりナルトの顔を覗き込んだ。
長い黒髪がさらりと流れるのがナルトの眸に映し出される。
ナルトの眸が揺れたのは気のせいか。
「ほら、血が出てる。」
「俺に関わらない方がいいってばよ?」
ナルトに向けられる冷たい視線が今その人にも注がれている。
ナルトは、別に自分が蔑まされるのは構わない。
だが、自分の周りにいる人たちまでもがそうなるのは絶対に嫌なのだ。
「全く、あんたは変わらないね。」
誰に聞かせるわけでもなくその人はそう呟いた。
そして、このままナルトが大人しく傷を手当てさせるとは思っていなかった。
「俺ってば傷の治り早いから大丈夫だって。」
「ほら、行くよ。」
「あんた俺の話聞いてるってば?」
「つべこべ言わない!」
その人は、ナルトの手を取り引きずるようにその場から連れ去った。
それはもう、あっという間だった。
残された里人は、別段何も思うでもなく普段と変わりない行動をしている。
その人は、ナルトと手を繋ぎ歩くスピードをあげていった。
それは、到底アカデミー生ではついていけないであろう速さだ。
だけど、ナルトも当然の如く加速する。
「ヨシノさんも相変わらずだってばね。」
ナルトの言葉にヨシノは、表情を緩めた。
三代目にナルトに自分から声をかけてはいけないと言われていた。
それは、幼い頃のナルトに関わった大人たちに下された命である。
だが、ヨシノは声をかけた。
初めて、見たのだ。
あんなのを目の前で見せられて声をかけないではおれなかった。
「わざわざ怪我をすることもないでしょうに。」
ヨシノの言葉にナルトは、苦笑するだけであった。
すぐに二人は、目的の場所に辿り着いた。
表札は『奈良』である。
「ほら、さっさと入る。」
ヨシノは、ナルトの背中を押し無理やり玄関に押し込む。
「俺、帰るってば。」
そう言っているが、それが本気ならとっくにヨシノを振り切っているはずだ。
「すぐ治るっていったって、消毒くらいさせなさい。」
「やだ。こんなの舐めとけば治るってば。」
「・・・どうやって舐めるのよ。」
その言葉にナルトは、動きを止めた。
「・・・そういえば、そうだってばねぇ。」
「プッ!ハハッ。」
素直に納得するナルトが可愛くてヨシノは、吹き出した。
「むぅ~、笑うなんて失礼だってばよ。」
「ハハッ、ごめん、ごめん。」
そして、ナルトの柔らかい髪を堪能するかのように頭を撫でた。
ナルトも素直に撫でられている。
そんな状況の中で二人に影が出来た。
二人が玄関の入り口を振り返るとこの家の主が立っていた。
「よぉ、何してんだこんなとこで。」
ニィっと笑いシカクは、有無を言わさずナルトを肩に担ぎ上げた。
「ほら、さっさとあがれ。」
「ちょ、シカクさん降ろしてってば。」
ナルトはバタバタを暴れるがシカクは、そのまま部屋へと足を進めた。
続く