月と影 十三
二人の勢いに押されナルトは、いつの間にか座っていた。
しかも、目の前のテーブルには美味しそうな料理が並んでいる。
『いつの間に作ったんだ。』
ナルトは、不思議そうに台所に立つヨシノを見た。
その視線を感じたヨシノは、振り返り腕を笑いながら振り上げた。
「あ、危ないってばよ、ヨシノさん。」
ヨシノは、包丁を握っている手をおもいっきり振り上げたのだ。
「大丈夫だって、そんなことよりほれここ座れ。」
ナルトは、いとも簡単にシカクに抱き上げられた。
そして、シカクは、ナルトを自分の胡座のかいた足の上に座らせた。
「ちょっ、シカクさん降ろしてって。」
「いやぁ、久々だな。この感触。」
ナルトの頭の上に顎を乗せシカクは、ナルトを抱き締めていた。
ナルトは、困ったようにその行為を受けている。
シカクが、ナルトをこんな風に扱うのは昔からだ。
それに、本当に嫌ならナルトは、触らせることもしない。
―――ゴトンッ
音と共に部屋の入り口では、シカマルが固まっていた。
それは、当然だろう。
いるはずのない人が、あろうことか自分の親父に抱き締められているのだ。
「ナルト君た〜っくさん食べてね。」
しかも、母親は普段よりも豪勢な料理を並べている。
それに、親しげにナルトの名を呼んでいるのだ。
「な、なんだ。」
呆然と立ち尽くす息子を無視して両親二人は、ナルトにかまっている。
ナルトは、そんなシカマルを見てどう思ったのか。
シカクの足の上から降りようとしていた。
「どこいくんだ、ナルト。」
シカクは、そんなナルトを制止する。
「だって、シカマルってばここに座りたいんだろ?」
このナルトの言葉にシカマルの頭は、?マークで一杯だった。
両親二人は、大爆笑である。
「なんだぁ、シカマル。ここに座りたいのか。」
「ナルト君に場所取られて怒ってんの?」
二人の言葉を素直に受け取るナルトは、本当に困った顔をしていた。
「シカマル、俺のくからさ。」
シカマルは、立ったまま拳を握りフルフルと震えている。
そして、いきなり叫んだ。
「っんなっことあるか!なんで俺が親父に抱っこされないといけないんだ。」
その言葉にナルトは、首を傾け二人はまたも大爆笑である。
「だぁ、なんか考えるのもめんどくせぇ。」
シカマルは、やっと座り箸を握った。
「いただきます。」
「はい、どうぞ。」
そして、ご飯を食べ始めた。
シカマルがご飯を食べている最中も両親二人は、ナルトにかまいっぱなしだ。
「俺、そろそろ帰るってばよ。」
そして、シカクは、立ち上がろうとするナルトを引き止める。
「まだ、いいじゃねぇか。風呂入って帰れ。」
一緒に入るかという言葉でシカマルは、思わず口の中の物を吹き出した。
「なぁに、シカマル汚いわね。」
シカマルは、口を手の甲で拭き冷静に口を開いた。
「風呂に入るのはいいが、」
「おっし、じゃ行くか、ナルト。」
「待てって。」
「あんだよ。お前が風呂入るのはいいって言ったんじゃねぇか。」
「「ねぇ。」」
シカクとヨシノは、視線を合わせて首を傾ける。
その二人の行動がよりシカマルを苛つかせている。
当然ワザとだ。
「『ねぇ』じゃねぇよ。なんでここにナルトがいるんだって話だろ。」
「俺、帰るからさ。」
シカマルが苛ついている原因が自分であると判断したナルトは、立ち上がる。
「いや、お前は帰らなくていい。」
「だって、シカマル怒ってんじゃん。」
「お前に怒ってるわけじゃねぇよ。」
シカマルは、ナルトの細い手首を掴み両親から自分の方へと引き寄せた。
そして、自分の隣に座らせる。
「シカマル?」
「そこにいろ。」
シカマルの横にチョコンと座ったナルトは、シカマルの食事が終わるのを待った。
両親二人は、ニコニコと否ニヤニヤとシカマルを見ていた。
「あんだよ。」
「「なんでもありません。」」
ナルトは、とりあえず黙って座っていた。
「ご馳走様。」
シカマルは、そう言うとナルトと向き合った。
「で、なんでここにいるんだ。」
「やっぱりここってシカマルん家なんだ。そっくりだってばね。」
ナルトは、シカクとシカマルを交互に見ていた。
「ナルト君が怪我してたから、私が引っ張って来たのよ。」
ヨシノがナルトの言葉に乗った。
シカマルが首を捻る。
「やけに親しげだな。」
そうシカマルにとってそれが疑問だった。
二人のナルトへのかまいようは、今日会ってからのものでは到底有り得ない。
ナルトは、ちょっと後悔していた。
『やっぱ振り切って帰るべきだったよな。』
しかし、ナルトには好意に差し伸べられた手を無下にすることは出来なかった。
だが、それによって察しの良いシカマルにあの状況を見られたのだ。
「ナルト。」
「なに、シカクさん。」
「こいつあんま強くねぇが頭は切れるぞ。」
「知ってるってばよ。」
「まぁ、強さはこれから鍛えればいいだけの話だ。」
「でも、シカマルってめんどくさがりだってば。」
「大丈夫だ。」
「何を根拠にそう言い切るってば?」
「『日向』と『油女』は、傍におけて『奈良』はおけないか。」
「あいつらは、俺の言うこと聞かないだけだってば。」
シカクの言葉にやっとシカマルが反応を示した。
「どういうことだ?」
疑問系の言葉だが、もうシカマルは大体の察しをつけていた。
「『ネジ』と『シノ』のことか。」
「わかってんじゃねぇか。」
「これで合点がいった。」
「なんのだってば?」
「今日、初めて『日向ネジ』と会った。」
今まで何回も見かけたことがあったが今日始めて面と向かい合ったのだ。
それも、一瞬ですぐにいなくなったから疑問にも思っていなかった。
「じゃ、『シノ』は?」
『油女』という姓で『シノ』を思い起こすのは当然だろう。
だが、シカマルは別の視点で考えていた。
「ナルトが頭を撫でるのを許す中にあいつが入ってるからな。」
そう、ナルトが自分の身体に触れさせる人は、極僅かなのだ。
「よく、見てんな。」
「うるせぇよ。」
息子の洞察力にシカクは、頭を掻きながら少し感心した。
ヨシノは、口を挟まずお茶をすすりながら話を聞いている。
「で、どうなんだ、ナルトよ。」
シカクに問いかけられナルトの顔にいつもの笑顔はない。
「俺を護らないって誓えるなら、いいってばよ。」
「だけど、お前は護るんだろ?」
シカクは、ナルトの頭を大きな手で撫でた。
「そうやって、いつも皆を護ってるのよね。」
ヨシノがにっこりと微笑む。
「俺は、強くないから護られるのは嫌だ。」
ナルトの言葉は、矛盾しているがナルトの内心を表している。
ナルトは、視線をシカマルに向けた。
シカマルは、頭を掻き溜息を吐いた。
「あいつらは、そう誓ってんのか。」
「一応誓ってくれてるってば。」
「だけど、誓いを守ってくれないか。」
「うん。」
「だけど、傍においてんだよな。」
「あの二人頑固だから。」
「あのな、ナルト。」
「ん?」
「結構、俺も頑固なんだ。」
ニィっと笑顔を見せるシカマルに今度は、ナルトが溜息を吐いた。
シカクとヨシノは、終始笑顔だった。
続く