と影  十四

 

 

「泊まっていけ(いきなさい)」

口を揃えて言う三人を振り切ってナルトは、奈良家を出た。

もう夜も更けている。

だが、ナルトの綺麗で眩しい月明かりは夜に輝く。

だから、ナルトは奈良家を出ると一瞬でその場から消えた。

 

誰の目にも止まらない程の速さでナルトは、空を駆けた。

 

そのまま足を止めず家に帰るつもりだった。

しかし、ナルトはある場所で足を止めそして少し先の大きな木に近づいた。

「ばれちゃった。」

額をコツンと大木の幹に当てナルトが小さく呟くと返事が返ってきた。

「ばらしたの間違いだろう。」

スッと現れたのは夜にもサングラスというシノだ。

「後悔しているのか?」

ナルトは、小さく顔を横に振った。

「シノのことも薄々感じてたみたいだった。」

「だろうな。時々不信の目を向けられていたからな。」

シノは、ナルトに近づきワシャワシャと柔らかい月明かりを撫でた。

「ナルトが望むのなら俺は構わん。」

あいつがどうかは知らないがな、シノはそう言って滅多に見せない笑顔を見せた。

ナルトは、小さな溜息を吐いて自分の家の方向に視線を向けた。

「まずいよな。」

「そうだな。」

「でも、なかなか帰してくれなかったし。」

「一緒に帰ってやろうか?」

シノの言葉にナルトは、大きく首を振った。

「遠慮しておく。その方が火に油を注ぎそうだ。」

「正論だな。まぁ、あいつはもう見ているだろうけどな。」

「それに、自分から会いに行ったみたい。」

「あいつも行動派だからな。」

シノは苦笑して再度ナルトの月明かりを撫でた。

ナルトは、ふわりと笑った。

「俺もう行く。」

「あぁ。」

シノは、ナルトの小さな背中を見送りその場から消えた。

 

 

ナルトが家に帰ると当然の如くそこには、ネジがいた。

「お帰り、ナルト。」

「ただいま。」

ネジは、ナルトにとって良き理解者であり仲間と呼べる一人だ。

まるで自分の家のようにくつろぐネジに近づきナルトはネジに抱きついた。

「お疲れ様。」

これは、任務から帰ってきた時の幼い頃からの習慣だ。

「どうやら、お前はシカマルも認めたらしいな。」

ナルトは、ネジに抱きついたまま小さく頷いた。

「確かにあいつは、頭が切れる。しかし、体力的な問題はどうする?」

ネジは、ナルトを宥めるように月明かりを撫で顔を上げさせた。

ナルトの額に自分の額を重ねて再度問いかける。

「足手まといならいらないんだぞ?」

「大丈夫。」

「ほう。」

「これからビシバシやる。」

「誰が。」

「ネジとシノ。それにシカクさんも本腰入れると思うよ。」

「少しシカマルが可哀相になってきたな。」

「なんでさ。」

ナルトは、ブゥっと頬を膨らませるがネジにそれを潰された。

「それを下忍に合格する前にしろ、ということだろう。」

「当然。なにごとも慣れだろ。」

ナルトは踏ん反り返った。

「それに、俺もシノも忙しいのをお前も知っているだろう。」

ナルトは、今は暗部に属していないがネジとシノはまだ属しているのだ。

「何ごとも鍛錬だってばよ。」

可愛らしくいつもの語尾をつけてナルトは、首を傾けて笑った。

ネジは、諦めたように苦笑して今日ここに来た本題に入った。

「ナルト、火影様から命が出た。」

「じっちゃんからなんて?」

いつも大事なことはネジから伝えられる。

それは、ナルトが願ったことだ。ナルトは火影を本当に慕っている。

より慕っているのは聖だが。

だから、忍としての命はネジに伝えてもらうようにしているのだ。

面と向かうとどうしても火影の方が情に流されると言った方がいいのかもしれない。

「どうやら試験に合格していいらしい。」

「俺ってば、下忍になるの?」

「あぁ。」

「護衛はもういいの?」

「護衛される者は、ほとんど今回で下忍になる。」

そこまで話してネジは、口を止めた。

「他にも理由あるだろ。」

ネジがほんの僅か一瞬動きを止めただけでナルトは、確信した。

「どうせ、じっちゃんに俺には言うなとか言われてんだろ。」

ネジが無言なのでそれを肯定とナルトは受け止めた。

「何があっても俺平気なのにな。」

それは違う。ナルトは、平気でいることが当たり前になり過ぎているのだ。

それがネジにとってもシノにとっても一番辛いことだ。

「お前が少しでも変わるといいんだけどな。」

「ん?」

「なんでもない。」

ネジは、シカマルと接するようになったナルトの笑顔がまた少し変化したと感じていた。

「俺は、お前の考えを否定も肯定もしない。好きにやらせてもらうさ。」

それは、火影の命でさえもナルトの前では霞むということだ。

ネジは、ナルトをソファーに座らせた。

「久しぶりに特製蜂蜜入りホットミルクでも入れてやろう。」

「本当に!ネジが入れてくれるって本当に久しぶりだな。」

幼い頃は、よく眠れるからとネジはナルトに作っていた。

 

あの頃のような想いだけは、もう二度とナルトに味合わせたくない。

それが、ナルトの傍にいることを許された人々の願いだ。

だが、忍として生きていくからにはそれからは逃れられない。

だから少しでもその想いがナルトの負担にならぬようにいつも心がけている。

 

ナルトの傍にいる以上『死』は、許されない。

しかし、いつでもナルトのために『死』は覚悟している。

 

でも、やはり『生き抜く』ことが『任務』よりも大事なのだ。

 

 

続く

 

13

15