と影  十五

 

 

ナルトが美味しそうにお弁当を頬張っている横で机に沈没してる人がいた。

「美味しいってばよ、チョウジ。」

「美味しいね。」

「チョウジの母さんは、料理上手だってばね。」

チョウジの母は、時々ナルトにお弁当を作ってくれている。

そして、それはナルトにとって懐かしい味でもある。

でも、それをチョウジは知らない。

 

ナルトとチョウジが偶然バッタリ道で会った時、チョウジは父親と一緒だった。

「ソックリ。」

ナルトは、二人を見比べて声に出さず口だけを動かした。

その動きにチョウザの口が大きく弧を描いた。

チョウジは、迷いもなくナルトを『友達』だと父であるチョウザに紹介した。

その行動にナルトがどれ程嬉しかったか計り知れない。

チョウジも名門の子だ。

何かを感じとっているかもしれないが、何も知らないのもまた事実。

ナルトを『友達』だと紹介されたチョウザも嬉しく思っていた。

「チョウジを宜しく。」

「こちらこそ、だってばよ。」

ナルトは、誰もいないとはいえ公の場なので挨拶だけで終わらそうとした。

だが、チョウザはその巨漢からは想像出来ない程の速さでナルトの手を包み込んだ。

ナルトは、掴まれる前に手を引っ込めるのは容易いことだったがそうしなかった。

人の好意は、胸が痛くなるけど嬉しいことだった。

 

それ以来、チョウジの母はナルトにお弁当を作ってくれている。

「あの子が私の料理を食べてくれるなんて何年振りだろうね。」

そう言って、腕を振るっていることをチョウジは知らない。

それでも、チョウジにとってナルトは『友達』なのだ。

 

今までビクとも動かなかった塊が動いた。

ナルトとチョウジは、そんなの無視して美味しそうに食べている。

「お前らには、心配という言葉はないのか。」

机に伏せていた顔を横に向けいつもよりも目つきの悪い目で二人を見た。

「「ん?」」

二人は、口にお箸を咥えたまま同時に横を向いた。

「シカマルが、寝てるのっていつものことだし。」

チョウジの言葉に、シカマルがノビテいる理由を知っているナルトは大爆笑である。

「ハハハッ、そうだってばね。」

シカマルは、反論する気も失せたのか最初からないのか、また机に伏せた。

 

お腹いっぱいだとお腹を撫でているナルトの横でチョウジは、お菓子の袋を開けていた。

「食べる?」

チョウジがお菓子を人にすすめるのはあり得ない。

しかし、どういうわけがチョウジはナルトにだけは勧めるのだ。

初めて何気なくお菓子をチョウジがナルトに勧めた時があった。

それは、本当に何気なくだった。

「食べないの?」

勧められたナルトは、目を見開いていた。

それもそうだろう。ナルトに話しかける人がいるのも稀なのだ。

だから、ナルトにしては珍しく固まった。

「いいのかってばよ?」

「いいから勧めてるんだけど。」

邪のないチョウジの言葉にナルトは、本来の笑顔を向けた。

「ありがとう。」

そして、今度固まったのはチョウジだった。

ナルトのそんな表情を見るのは、初めてだったのだ。

挨拶を返して時でさえ、そんな風な笑顔になったことはなかった。

それ以来、チョウジはナルトにお菓子を勧めるようになった。

 

チョウジは、ナルトの表情の変化に気がついている。

いつも元気な笑顔の裏にある儚いまでに心惹かれるあの笑顔。

もしかしたらシカマルよりも先に気がついていたのかもしれない。

気がついているからこそチョウジは、周りをよく観察している。

シノがナルトと仲が良いもの知っている。

それに、ナルトがドベで悪戯好きな理由もチョウジなりに理解している。

 

チョウジにとってナルトはナルトであって、『友達』なのだ。

 

ナルトがナルトだから、仲良くなれると感じたのだ。

それは、シカマルと友達になった感じと良く似ていた。

 

ナルトがシカマルを気にしていたのも知っていた。

それに気がついていないシカマルに、いつも苦笑していた。

自分で気がつかないと駄目なのだ。

チョウジは、いつかシカマルなら気がつくだろうと見守っていたのだ。

だから、気づきだした時、ほんの少し言葉を投げた。

それだけで頭の回転の速いシカマルは、ナルトと仲良くなった。

チョウジは、満足していた。

『友達が嬉しいと僕も嬉しい。』

チョウジは、そう思いながら動かないシカマルとその頬を突っつくナルトを見た。

ここ数日、ナルトの表情がいつもよりも柔らかい。

それでも、影を落としてるのは確かでチョウジはそれが正直辛い。

「知ってるようで何も知らないもんな。」

ボソリと呟くチョウジの言葉をナルトは、聞こえない振りをする。

 

きっと、チョウジは本当のナルトを知っても驚かないだろう。

 

だけど、まだチョウジには早い。

秋道一族の強さは、特有の強さだ。

日向・油女・奈良・犬塚・山中・うちはetc.それら全て特有の強さを持つ。

秋道の強さは、それらと全然違うのだ。

だから、まだナルトはチョウジを『秋道』として見ない。

それとして見ているのは、『日向』であるネジとヒナタ・『油女』であるシノである。

そろそろシカマルも『奈良』として見られるかもしれない。

まだ、先の話だがキバも『犬塚』として、いつか見られるのだろう。

きっと、その頃にはチョウジも『秋道』として見られているのだろう。

 

いつか『友達』が『仲間』になる。

 

続く

平成18125

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16(考え中)