と影  

 

 

晴れ渡る蒼い空の下のある家で一人の男の子が呟いた。

「めんどくせ―。」

彼は、布団に顔を埋めたまま、うつらうつらとまた目を閉じ始めた。

その時である。

「シカマルよぉ。お前今日からアカデミーに行くんだってな。」

彼とよく似た男(否男に彼が似ているのか)が勢いよく彼即ちシカマルの部屋の戸を開

け叫んだ。

「・・・親父うるせ―よ。」

しかし、シカマルには起きる気配がまるで見られない。

「お前は相変わらずだな。まぁいい、さっさと朝飯にするぞ。」

母さんが朝ご飯を準備して待っているとシカマルの父は、息子であるシカマルの後ろ襟を

掴みそのままズルズルとシカマルを引きずって部屋を出た。

「あら、起きたのね。」

残念そうにそう言う母に、父に引きずられながら食卓に来たシカマルは、一言。

「母さん・・・それどうするつもりだった。」

「え?これぇ。起きなかったらあなたに注いであげようと思って。」

シカマルの母の手には、沸騰したお湯が入っている片手鍋が存在していた。

冗談よと笑う母に、シカマルは心中で突っ込みをいれる。

『いや、絶対本気だっただろ。』

まぁ、そんなこんなで朝食も食べ終えシカマルは、玄関へと向った。

「めんどくせ―けど行ってくるわ。」

「おう、しっかりな。」

「気をつけてね。」

両親のそれぞれの言葉にヘイヘイとやる気なく返事をして玄関を出ようとしたシカマル

に父が声をかけた。

「おぉ〜そうだ、シカマルよぉ。」

一歩前に出そうとした足を止めシカマルが振り向かず答える。

「あんだよ。」

「流涙(るな)に宜しくな。」

父は、息子の背中にお箸を持っている手を軽く上にあげた。そして、また朝食を食べ始めた。

「ハァ〜、『ルナ』って誰だよ。」

シカマルは、会ったことのある大概の人は憶えている。だが、父が言った『ルナ』という名の

人物の記憶はない。記憶がないということは、父の知り合いであって自分の知らない人なのだ

ろうと解釈してシカマルは、父の言葉を軽く流した。

 

父と息子の会話に母は、溜息を洩らした。

「どうした?」

「あの子絶対、わかってないですね。」

「そりゃ、まぁ当然だろうな。」

「火影様もひどいですよね。自分家の子供が仲良くならなきゃ家に招いても会いに行っていけ

ないなんて。」

木の葉の特別な子供たちの親は、小さい頃からのナルトを知っている。自分の子供と仲良くさ

せたかったのだが火影がそれを許さなかった。どうやら、ナルトと子供たちを極自然に廻り逢

わせたかったらしい。そして、親たちの心情無しにナルトと接して欲しかったのだろう。それ

は、ナルトの願いだったのかもしれない。

「しかも、子供にナルトの名前も出しちゃいけねぇときてる。」

「あなた呼び出されるんじゃない。」

「・・・あの名もそう簡単に口にしちゃいけねぇからな。」

苦笑しながらも仕方ねぇだろと言う父に、母はそうよねと答えた。

二人とも出来る事なら他の特別な子供たちよりも先にナルトとシカマルが仲良くなって欲しい

のだ。

「成長してるのかねぇ。」

「相変わらず少食らしいって聞いてますけど。」

「早く逢いたいもんだな。」

「そうね。」

そんな二人の想いは、シカマルの帰宅によって儚くもまだ遠いものになる。

 

シカマルが帰宅した途端、両親が詰め寄った。

「どうだった。」

「流涙には逢えたか?」

「あぁ?・・・そんなんいなかったぜ。」

二人の質問に気だるそうに答えながらシカマルは、さっさと自分の部屋へ向おうとしてい

る。そうなのだ。シカマルは、自分が興味無いものには一切無関心なのである。

それに、一通り同じクラスの奴の名を憶えてはいるがそんな名前の子はいなかった。

まぁ、それは当然であろう。

「俺は、お前をそんな風に育てた憶えはないぞ!」

いきなり発狂し出した父にシカマルはシレっと答える。

「そんなん知るか。いなかったんだからしょうがねぇだろ。」

「しょうがないじゃ済まされないのよ!」

母でさえ声を荒げシカマルは、二人にわけもわからないまま責められた。

「あぁ、うぜぇ!」

「「気がつかないお前が悪い。」」

両親にそう言われても何も知らないシカ丸は、それを聞き流すしかなかった。

 

続く