月と影 四
ある日の放課後、遅くまで一人残っていたシカ丸が帰ろうと廊下を歩いていると後ろ
から声をかけられた。
「奈良!奈良シカマル。」
それは、普段から聞き覚えのある声でシカマルは、足を止め振り向いた。
「ちょうどよかった。」
「ハァ?」
「実は、今から大事な会議があってな。」
「で?」
「すまんがこれをナルトに届けてくれないか?」
「ハァ〜!?」
「うずまきナルト、知っているだろ?」
「そりゃ、まぁ一応クラスメイトだし名前くらいは。」
「そうか、じゃ頼む。今日中に渡さないといけなかったのを忘れててな。」
「めんどくせ―から嫌です。」
担任であるイルカの頼みをシカマルは、あっさりと断った。大体シカマルは、ナルト
と話した事がない。いつもなにかと騒いでいるナルトと出来る事なら面倒な事には巻
き込まれたくないシカマルに接点などあるはずがないのだ。しかし、イルカは諦めな
い。
「そんなこと言わずに頼む。」
目上である先生がこうも簡単に生徒に頭を下げて構わないのだろうか。
シカマルは、暫し考えた。そして、イルカがここまで頼むのだから余程大事な内容な
のだろうと解釈をして届けることを引き受けた。
「すまんな・・・それじゃ頼む。」
「別にいいっすけど、俺うずまきの家知らないっすよ。」
そういえばそうだなとイルカは、手早く紙に簡単な地図を書いてシカマルに渡し足早
にその場から去った。
「・・・ていうか近いな。」
それが地図を見たシカマルの第一声であった。ナルトの家は、アカデミーから近く中
忍であるイルカの足ならばすぐに着きそうな場所にあった。ブツブツと文句をいいな
がらも、受け取ってしまった手前シカマルは、仕方なくナルトの家に向った。
ものの数分でナルトの住む家の前に辿り着いたシカマルであったが、門らしき場所に
呆然と立っているだけで動かない。
「あ〜、なんでこっから入れねぇ〜んだ。」
シカマルがそこから家の敷地に足を踏み入れようとすると、何か見えない壁に阻まれ
てそれ以上立ち入ることが出来ないのである。
「うぜぇ・・・イルカ先生は、これを知ってて俺に頼んだのか。」
シカマルがどう足掻いても中に入れずもう帰ろうかとした時だった。
「・・のお友達?」
その言葉にシカマルが振り返ると其処には、白い日傘を差した品のある老婦人が立っ
ていた。
「クラスメートです。」
友達というほど仲良くもなければ話したこともないのでシカマルはそう答えた。
「そう。」
老婦人は、日傘をたたみナルトの家の敷地に入ろうとした。
「あっ!」
「なぁに?」
思わず声を出してしまったシカ丸に老婦人はニッコリと微笑む。
「入れないっすよ。」
老婦人は、その言葉に家の周りを見渡した。
「あの子ったら、また無意識に結界を張ってるのね。」
「ハァ?」
シカマルは、老婦人の呟きを聞き逃さなかった。
「一緒に入る?」
そう言いながら老婦人は、シカマルが入れなかった敷地に足を踏み入れた。
「なんで・・・?」
「・・に用があるんでしょう?」
呆然としてまた大事な名前を聞き逃していることにシカマルは、気がつかない。
「えっ・・・あぁこれを。」
「渡しておきましょうか?」
シカマルは、差し出された老婦人の手にイルカに頼まれてた紙をのせた。
「・・・お願いします。」
「はい、確かに。」
そして、すぅ〜っと老婦人は、ナルトの家の中へと消えていった。
「・・・なんだったんだ。」
シカマルがもう一度足を踏み入れようとするがやはり入れない。
そして、頭に残る老婦人の言葉・・・『無意識に結界を張っている』
つまり、ナルトの家に入れるのは、ナルトが心許した者だけなのだ。
結界を張るという行為は、チャクラを激しく消耗する。それを知っているシカマル
は、余計に首を傾げた。それもそのはず『うずまきナルト』は、卒業試験に失敗し
まくるいわゆる『ドベ』なのだからシカマルが不思議に思うのは当然だろう。
その場にいてもしょうがないのでシカマルは、疑問を抱えつつその場を後にした。
その頃ナルトは、楽しげに植物たちの世話をしていた。
「流涙。」
その声にナルトは、柔らかく微笑みながら振り返った。
「聖さん。」
ナルトは、動かしていた手を止め聖(ひじり)と呼んだ老婦人に駈け寄った。
「相変わらず綺麗ね。」
聖は、植物たちを見渡し目を細めた。
「今日は、どうしたんだってばよ?」
ナルトは、その場に備え付けてある椅子を引き聖に座るように促す。
「えぇ、近くまで来たものだから。」
「火影のじっちゃんは、知ってるの?」
「知らないと思うわ。そういえば流涙。」
「聖さんがナルトって呼んでくれたのは後にも先にもあの時だけだってば。」
「そうね。あの時は、あなたの大事な旅立ちの日だったから。」
聖は、ふんわりと笑った。
「それに、私にとってあなたは流涙だから。」
「それは・・・そうだけど。」
「あら、流涙って呼ばれるの嫌?」
「嫌じゃないってば、聖さんにそう呼ばれるのが一番好きだってばよ。」
ナルトは、照れながら聖に笑顔を向けた。
「で、なんだってば?」
「あなたの家に入れず呆然としていた子から預かったの。」
差し出した紙をナルトは受け取った。
「聖さん。」
それを読み終えたナルトが苦笑した。
「なぁに?」
「どうやら此処に来ることばれてたみたいだってばよ。」
「あら、そうなの。」
あの紙は、イルカが火影に渡されていたものだった。
「火影のじっちゃんも後から来るって。」
「あら、あら。」
聖が微笑むとナルトも微笑んだ。
続く