と影  

 

 

月の光だけが闇を照らす真夜中、ナルトは、散歩と称して外に出かける。手には、ペ

ンキとはけが握られている。それを持つ日の散歩先は、いつも決まっている。その場

所は、岩を掘って削って作られた火影岩だ。其処に着くとナルトは、足にチャクラを

集中させてロープも使わず岩場を軽やかに移動していく。そして、淡々と一応考えな

がらはけを握っている手を動かし岩場すなわち歴代の火影の顔にペンキを塗っていく。

月の光が闇夜に明るく灯っている。その光の中でその光と同じ色がひょこひょこと動

いている。その背後に一つの影が現れた。

「相変わらずだな、ナルト。」

ナルトは、その声の方に振り返るとニィ〜っと楽しそうに笑った。その笑みは、悪戯

をしている時や考えている時の特有の笑みで滅多に見られるものではない。ナルトの

視線の先には、動物を模した白い仮面で顔を覆う人・・・即ち暗部が立っていた。

「やるからには徹底してやるもんだってばよ。」

そう力説するナルトに暗部は、面を頭の上に移し素顔を曝す。

「どうせ自分で消すんだろ?」

暗部は、ナルトの笑い方を真似るようにニィ〜っと笑った。

「ん〜、明日の夕方くらいには、消えてるだろうね。それよりもさぁ、暗部は、人前

で面を取ったらいけないんじゃなかったてばよ?」

「誰の気配も感じねぇし、お前は、俺のこと知ってるからいいだろ。」

「そういうもんだってば?」

「そういうもんだ。」

ナルトは、暗部の言葉に首を傾げつつも落書きをする手を休めない。

「なぁ、ナルト。」

「ん〜?」

「俺も描いてもよいか?」

「駄目ぇ。」

「なんでだ。」

先刻、任務を終了させてきた暗部とは思えない程その人は、両手を無気力にダラ〜ン

とぶら下げ揺らしている。

「これは、俺の自己主張なの。だから、俺がやらないと意味ないってばよ。」

岩壁を器用に音も無く歩きながらナルトは、出来栄えに納得がいったのか満足そうに

手を止め下から火影岩を見上げた。

「それに、暗部の兄ちゃんとやったら、叱られて一人で消す俺がなんだか虚しいって

ばよ。」

終了!っと小さく声をあげてナルトは、また暗部に向ってニィ〜っと笑った。

「この岩に落書きすんのは、この里の中じゃお前だけだもんな。」

それは、ナルトだけに許された行為でもある。ナルトは、きっと里の誰よりも歴代の

火影たちを敬い尊敬している。だからこそ、ナルトは馬鹿げた悪戯をするのだ。歴代

の火影たちが愛し守ってきた里のためにナルトは、里人に安心感を与えるために今日

も悪戯を繰り返す。

「しかし、実際お前も楽しんでるだろ?」

「まぁね。」

泣くことさえも知らなかったナルトが楽しいと笑って其処にいるだけで暗部は、暖か

い気持ちになれた。あの頃のナルトのことを知っている者は皆そうなるのだろう。

「それよりお前友達は出来たのか?」

「挨拶を返してくれる子は、数人いるってばよ。」

「お前ねぇ・・・何年アカデミーに通ってるんだ。」

「だって・・・」

「だってなんだよ。」

「自分から話しかけるの恥ずかしいってば。」

暗部は、手に乗せていた顎を思わずずり落とした。

「元気で騒がしい『うずまきナルト』が何言ってやがる。大方お前自身が騒ぐだけ騒

いで他人に話しかける機会を与えてないんだろう。」

「むぅ・・・。」

「まぁ、本来お前は静寂を好む方だもんな。」

「そんなんじゃ・・・」

暗部は、理解している。ナルトは、人と深く関わるのを恐れているのだ。幼い頃に受

けた傷が今も尚心の奥底に沈んでいるのだ。火影邸に来たばかりのナルトは、感情を

押し殺している子供だった。三代目火影や聖そして暗部、上忍がゆっくりとひどく分

厚く凍った心を溶かしていったのだ。

「本当の自分を曝け出しても傍にいてくれる人・・・見つけろよ。」

「そんなん無理だってばよ。」

暗部は、月の光とよく溶け合う髪をクシャクシャと撫でた。ナルトも素直にそれを受

け止めている。

「俺たちは、自分たちの意思でお前の傍にいるんだ。それと同じ様にお前自身が傍に

いたいと思う人を見つければいい。」

「・・・余計に傍にいられないってば。」

自分のことで他人が傷つくことを嫌うナルトの優しさをどうして里人は気がつけない

のか。

「まぁ、気長に頑張れや。」

「おぅ!。」

気が向いたらまた一緒に任務しようなと暗部は、その場から消えた。

 

暗部からすでに足を洗っているナルトは、暗部を見送りながら苦笑するのであった。