月と影 八
ナルトは、あえてギリギリの時間に朝学校に来ている。
「ふぁ〜、そろそろ行きますか。」
ナルト特有の言葉使いはどうやら人と話す場合のみらしい。独り言などを言う時は、完
全に特有の語尾は消えている。それをナルトは、自分自身気がついてはいない。人とは
違う言葉使いをすることによって無意識に人と距離を置いているのかもしれない。
いつもの時間に家を出てナルトは、颯爽と駆け出す。別段必死に走っているわけではな
いが周りからみればナルトは、遅刻スレスレでまるで焦っているかのようにも捉えられ
る。ナルトのこの行動には意味があった。聞きたくないのだ。聞こえないように・・・
だが実際には聞こえているその囁きを笑い飛ばせるほどナルトの精神は強靭ではないの
だ。ナルトは、囁く事によって自分を虐げることによって里人の心が軽くなるのならそ
れでもいいと思っている。その言葉に行動に傷つかないはずなどないのにナルトは、ひ
たすら笑う。いつか自分を見てくれる認めてくれる刻までナルトは、笑うのだろう。
『本当は、俺が消えるのが一番いいんだろうな。』
幼い頃、ナルトは自分の存在意義が欲しかった。誰かに自分を見てもらいたかった。そ
んな自分の願いにさえ気がついていなかったナルトは、生きるという事がわからなかっ
た。それと同時に死というものも知らなかった。
『・・・俺は、火影になるって決めたから。』
自分の進む道を方向を見つけたナルトは、前を見続けることを心に秘めたのだ。
(ナルトがそう思った経緯は、また別のお話で)
ナルトが家を出てものの数分でナルトは、学校に着いた。
「おはよーだってばよ。」
教室に入る前即ちアカデミーの校舎に入る時もナルトは、元気良く挨拶をする。だが、
それに反応する子供そして教師は少ない。随分と永い刻をアカデミーで過ごしているナ
ルトだがやはりこういうのは寂しい。だけど、その想いを表面には出さずひたすら笑顔
なのだ。その笑顔も作った笑顔ではないのがまた難儀なことだ。作り笑いではないのだ
から誰もナルトの奥底に気がつかない。誰も見ようともしない。挨拶を交わしてくれる
子たちもまだ気がつかない。ナルトの行動は、演技であって演技ではないのでナルトの
奥底を探るのはとても難しいのだ。
「お・・おはよう、ナルト君。」
オドオドした声にナルトが振り向くとそこには。名門・日向宗家の嫡子である日向ヒナ
タがいた。仄かに頬を染めている姿がなんとも愛らしい。
「おはよーだってばよ、ヒナタ。」
ナルトからの返答にヒナタの顔が明るくなる。周りからの中傷の声などヒナタには聞こ
えていない。しかし、ナルトにはしっかりと聞こえているわけで・・・もう行かないと、
とその場を去ろうとナルトが動いたその時だ。ナルトは、あえてそれをかわさず受け止
める。
「ぐぇ。」
受け止めた瞬間、喉から潰れた声が漏れた。
「おはよ〜、ヒナタついでにナルト。」
自分の腕を見事にナルトの首にあてがえラリアットをかましたのは、山中いのである。
「ごほっ・・・お前なんでいつもいきなりなんだってばよ。」
咳き込むナルトに『ごめん』などと謝罪する気など更々ないいのは、笑っていた。
「避けられないあんたが悪いのよ、ねぇヒナタ。」
同意を求められたヒナタは、しどろもどろだ。
「いいけどよ・・・おはよ、いの。」
挨拶を返す事を忘れないナルトにいのは、満足する。挨拶されても挨拶を返さない奴ら
にナルトをとやかく言う筋合いは無いとばかりにいのは、いまだ中傷の声を吐き出す周
りを睨みつけた。
「あんたら何やってんの。」
呆れたように言葉をかけてきたのは、春野サクラである。
「サクラちゃん、おはよだってばよ。」
「おはよう。」
ナルトが嬉しそうに挨拶をすれば返事が返ってくる。只単に挨拶を交わすだけの交友関
係だがナルトにとってはそれだけでも嬉しかった。只、自分と話すことによって他人か
ら嫌な言葉や行動を受けていないかが心配なのだ。ここで、それだけの関係なのにいや
にいのとナルトが仲良く見えるのは、店と客の関係があるからだ。御存知の通りナルト
は、植物を育てている。そうなると種から自分が育てる事もあるわけだ。
「種ならここに買いに行きなさい。」
聖にそう言われて行ったお店がいのの家だったのだ。何回かお店に通う内に微妙に仲良
く(?)なっていったというわけだ。
「「きたわ。」」
いきなり二人の眸がキラ〜ンと光った。いのとサクラは、ナルトを押しのけ後方から来
る影に勢い良く翔けて行った。
「「サスケくぅ〜ん、おはよう。」」
お互いを邪険にしつつ息ピッタリなことに呆然としながら、ナルトはヒナタと眸が合い
笑った。その笑い方は、普段滅多に見られないナルトの柔らかい微笑みである。ヒナタ
は、見惚れながらも微笑み返した。
「いけね、遅れるってばよ。じゃな、ヒナタ。」
そうしてナルトは、ヒナタに一声かけサスケを挟んで騒いでいる二人を背に教室へと急
ぐのであった。
続く