と影  

 

 

全ての授業が終了して子供たちは教室をそして学校を後にして行く。

「ナルト。」

「なんだってばよ、イルカ先生。」

イルカがその場から歩き出そうとするナルトの襟足を掴んだ。

「いいから、こっちを向け。」

「俺ってば忙しいの。」

「ほぉ〜、どう忙しいんだ。」

「・・・シカマルと約束してるし。」

ナルトは、そう言葉にすると咄嗟に帰ろうとしているシカマルの服を掴んでいた。ナルト

のシカマルを見る眸は、助けてくれと訴えている。突然服を捕まれたシカマルは当然驚い

ていた。

「シカマル本当か?」

シカマルは、ナルトを見つつ人の目でも十分わかるような深い溜息を吐いた。

「ハァ〜・・・してないっす。」

無情なシカマルの言葉がイルカの耳に響いた。

「シカマルの薄情者。」

ナルトが情けない眸でシカマルを見つめた。

「この前、お前ん家に入れなかったしな。」

「?」

ナルトの表情は、キョトンとしていた。そして、思い出したように口を開いた。

「あ〜、聖さんが言ってた奴ってシカマルのことだったんだってば。」

そうか、そうかとナルトは、一人で納得していた。そして、いつもと同じ様で違う表情で

にっこりと笑った。

「ありがとう。」

ナルトの思いがけない言葉にシカマルは、首を傾げた。ナルトにしてみればちゃんと自分

の手元に届いていたので一応お礼を告げておきたかっただけなのだ。ナルトの後では、イ

ルカが苦笑している。

「ん、何?」

ナルトは、溜息を吐くシカマルと苦笑しているイルカを交互に見ながら不思議そうな顔を

している。

「もう、大丈夫だ、シカマル。」

「へっ?」

なんでイルカがそんなことを言うのか怪訝な顔でシカマルはイルカの顔を見た。

「ナルトが自ら進んで他人を掴むなんてことはそうそう無いからな。」

ナルトは、その言葉で掴んでいたシカマルの服から自分の手を離した。それが一層気に入

らないのかシカマルの眉間にシワが刻まれる。

「ナルト。」

「なん?」

「今度遊びに行く。」

脈絡のないシカマルの言葉にナルトの眸は、見開かれていた。しかし、すぐに笑顔に変わ

りイルカに振り向いた。イルカは、優しい笑顔で微かに頷いた。

『良かったな。』

『うん。』

そして、その笑顔のままナルトは、シカマルに振り向いた。

「絶対だかんな。」

「入れねぇってことはねぇよな。」

「大丈夫だってば、もうシカマルの気配はばっちり憶えた。」

それは、思考的なものではなくて感覚的なものなのだ。知っている気配でもナルトは、警

戒を解かない場合の方が多い。それは、無意識に憶えた自己防衛だともいえる。

「はい、もういいだろう。ナルト行くぞ。」

約束だってばよ〜、とイルカに引きずられながらもナルトの笑顔はシカマルに向けられて

いた。

「ナルトの奴、また火影岩に落書きしたらしいぜ。」

「またかよ。よくやるよな。」

ナルトとイルカが去った後でクラスに残っていた奴らがそう言っていた。

『昨日までは、なんもなかったよな?』

シカマルの中で思考が動き始めた。

―――今日ナルトは、いつもよりも授業中寝ていた

それが意味するのは、夜中に落書きを実行したということだ。驚くべき事は、その点では

ない。火影岩は、かなりでかい。しかし、ナルトは、いつも全体に大きく落書きをしてい

る。それは、到底一晩でアカデミー生しかも落ちこぼれが出来るようなものではない。そ

れに、里の者は、誰一人としてナルトが落書きをしている姿を見たことがないのだ。なの

に、里の者は、ナルトがやっているのだと信じて疑わない。まぁ、実際ナルトなのだけれ

ど。

『やっぱり、あいつにはなんかあんのかねぇ。』

そう疑問に思いつつシカマルは、まぁいいかなんて思っていた。

『遊びに行く約束したし、後々わかることだろう。』

面倒くさがりのシカマルが自ら他人の家に遊びに行くこと自体かなりすごいことなのだが

本人は、それに気がついていなかったりする。

 

続く

 

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