闇に呑まれる月・月に照らされる闇 参
業務の忙しい火影は、なかなか自分の家である火影邸には帰れないでいた。
しかし、その日火影は、久方ぶりに火影邸へと帰って来た。
火影の腕の中では、警戒心の強い月の欠片が何も映していない眸でまっすぐ前を見据え
ていた。
「ナルトよ。」
三代目がナルトを抱きかかえようと手を伸ばせば無言でナルトは、拒否をする。
まるで自分に触れるなと言いた気な眸がより三代目の胸を痛くさせる。
誰かに触られるのは嫌
その手は、優しそうなのにひどく暴力的
投げかけられる言葉の意味なんて知らない
傷つけられても一晩で元通り
だけど、なんか痛い・・・なんでだろう・・・なにがどこが痛いの?
そもそも痛いって何?
俺は・・・なんなのかな?
ナルトは、蒼い眸を曇らせ身体の力を抜いた。
「ナルトよ・・・お前の住む所が変わるのだ。」
抵抗を諦めたナルトは、大人しく三代目の腕におさまった。
『この人も俺を名前で呼んでくれる・・・んだ。』
先日まで名前で呼んでくれた人は、もういない
なんでいないのかな?
あの人の手は、温かった・・・もういない
『お前の所為で・・・』
言葉はわかる。
でも、意味がわからない。
わかるのは、胸がすごく苦しくて締めつけられるってことかな。
ん〜、やっぱしよくわからない。
言葉は、わかるのに意味がわからない。
三代目が火影邸に入った。
もうそこのどこに住むかも決めているのだろうスタスタと長い廊下を歩いていく。
「あら、お帰りなさいませ。」
突き当たった部屋の戸を開けると品格のある少し年のいった女性が椅子に座っていた。
「あぁ、ただいま。」
「久しいですな、三代目。」
女性の横で黒髪を頭の上の方で一括りにしている男が一応礼儀正しく頭を下げた。
「来ておったか、奈良。」
奈良と呼ばれた男は、上忍(稀に暗部)でこの女性の薬の調達をしている。
「奈良さんとこの薬は、よく効きますから。」
それは、そうだろう。奈良家の薬は、里の宝ともいえる。まぁ、里の最大機密だったりす
るくらいだ。
「ところで今日は、どうなさったのですか?」
女性がゆっくりと立ち上がり三代目に否、三代目の腕の中にいるナルトに近づいた。そし
て、ナルトの目線に視線を合わせ微笑んだ。だが、ナルトの表情は、変わらない。
「この子・・・ナルトの躾を聖・・・お前に頼みたい。」
「まぁ、あなたが私に頼みだなんて珍しい。」
ねぇと奈良に笑いかければ、奈良は苦笑するのみである。
「そう言うな。」
三代目の腕の中でナルトは、ピクリとも動かない。
「歳は?」
「もうじき二歳になる。」
「こちらにいらっしゃい。」
聖は、細く白い手をナルトに伸ばし三代目から自分の腕にナルトを移動させた。ナルトは、
抵抗することもなく表情を変えることもなく聖の腕に納まった。聖は、ジッとナルトの眸
を見つめた後すごく冷たくきつい眸で三代目を見据えた。
「あなたは、この子にどのような生活をさせていたのかしら?」
「くっ・・・」
三代目は、思わす聖から目を逸らした。
「それは、私からお話致します。」
そっとその部屋に入ってきたのは、最近長期任務から帰って来た暗部の一人の男だった。
『おいおい、出ていきずれぇじゃねぇか。』
存在を忘れられている奈良も居場所なさ気にその話を聞いた。聞く気がなくともこの狭い
部屋での話だ、嫌でも耳に入ってくる。
『おいおい、マジかぁ。』
三代目がこの部屋に入ってきた時から腕の中の子供が九尾を封印された子だとわかってい
た。戦いが終わり奈良も自分に与えらた仕事に忙しくその子供のことは、頭から遠ざかっ
ていた。だから、その子がどんな生活を強いられて生きてきたかなんて考えた事も無かっ
た。
「それで。」
聖は、淡々と男の話を聞いている。
「ナルトは、感情を知りません。言葉は理解しているようですが話すことは出来ないみた
いです。」
「そう。」
男の話が終了し、聖は、椅子に腰掛け自分の膝にナルトを座らせた。そして、ナルトの柔
らかい頬をムニュッと掴み左右に引っ張った。
―――ブニュブニュ
「あら、よく伸びるわね。」
「ひ・・・聖様?」
ナルトは、聖のされるがままになっている。
『柔らかそうだな。俺も触りてぇ。俺の息子なんざあんなプニプニしてねぇぞ。』
奈良は、横目で見ながらそんな風に思っていた。
「聖、頼めるか。」
この火影邸には、三代目ではなく聖が認めた者しか出入りを許されていない。だからこそ
ここが一番安全なのだ。三代目の奥方である聖は、人を見極めることに対して長けている
のだ。
「初めからここに連れて来ておけば良かったんですよ。」
「ここまで里人が行動に移すとは思わんかったんじゃ。」
「その話し方止めて下さいませんか?こちらまで歳をとった気分になります。」
「わしとお前は、同じ歳だろうが。」
「あら、そうでしたか。」
「おぉ〜嫌じゃのう。もうボケたか。」
「私は、あなたより半年は若いですよ。」
『『どっちも年寄りじゃねぇか』』
奈良と暗部の男の気持ちは、一緒であった。
「ふぁ〜・・・。」
二人の低レベル言い合いは、ナルトの欠伸によって中断された。
「で、どうなんだ。聖よ。」
「あら、全然構いませんよ。私もちょうど暇ですし。」
にっこりと笑う聖がなぜだか怖いと感じる三代目であった。
状況を把握しながらも理解はしていないナルトは、ただただ無抵抗に聖の膝の上に座っ
ていた。
続く