闇に呑まれる月・月に照らされる闇 四
「今日から此処があなたの部屋よ。」
聖に抱えられナルトが連れてこられた部屋は、大きな窓から覗く緑がすごく印象的だった。
「気にいった?」
聖が窓に近づきナルトに外を見せた。
地に根を張る存在感に無表情ながらもナルトの眸は、釘付けになっていた。
そんなナルトの様子に聖は、仄かに微笑んだ。
「植物を見るのは、初めて?」
聖の言葉にナルトは、首を傾げた。それは、当然の事だ。
ナルトは、言葉を知っていてもその意味を深く理解していない。
今、聖に大人しく抱かれているのも『痛い』のは嫌だからだ。
殴られて蹴られてナルトの感情に『痛み』が現れた。
誰かしらに教わったわけではない。
しかし、『痛い』という感情が嫌なことだと気がついたのは、一時の間少しの『優しさ』に
触れたからだ。『優しさ』は、心地良くてより『痛み』をひどくさせた。
『優しさなんかいらない』
『痛み』をより和らげるためにナルトは、自ら『優しさ』『安らぎ』を遠のける習慣がすで
にこの時身についていた。
『自分は、優しくされる護られる価値のないモノ』
自分をそう位置付け殴られ蹴られる非日常を日常だと錯覚させていた。
三代目火影は、言った。
「すまない。」
その音色にナルトは、その意味を理解しているかもしれない。
だけど、ナルトの表情は変わることなく眸は宙をジッと見ていた。
「すまない。」
何度も何度もナルトに向って謝る三代目火影の眸には、涙が浮かんでいた。
「あなた邪魔。」
ナルトを抱き外の緑を眺めていた聖が三代目火影の方に振り向いた。そして、にっこりと
微笑んだと思ったら眸をスゥ―っと細ませた。
「お仕事の途中なのでしょ。早く戻った方が良いのではないのですか。」
「しかし・・・」
「『しかし』じゃありません。先刻から口を開けば謝罪の言葉ばかり、いい加減こちらも
嫌になります。謝罪も大事かもしれませんが今ナルトに必要なのはそんな言葉ではないで
しょうに。」
ねぇ、とナルトに微笑んでもやはりナルトの表情は変わらない。
「あら、そろそろ限界かしら。」
聖は、ゆっくりとナルトをフカフカの布団の上に座らせた。そして、数歩ナルトから離れた。
「どうした、聖。」
「身体が硬直しています。」
火影がナルトを見れば、ナルトは手をギュウと握りその手を緩めようとはしない。
「ナルト。」
「近づいては駄目です。余計に硬直してしまいますよ。」
ナルトは、警戒心が強くあまり長時間人に触れられていると危険だと思い込み身体が動かな
くなっていくのだ。
「まずは、人が近くにいることに慣れることが大事みたいですね。」
「そう・・・じゃな。」
自分を見つめている二人を遠くに見ながらナルトは、身体の力を弱めることはしなかった。
自分を抱いてくれた二人の腕を『温かい』『心地良い』と感じていたのは本当だ。
だけど、それ以上にいつ殴られ蹴られるかもしれないという警戒心の方が勝っていたのだ。
続く