に呑まれるに照らされる闇  

 

 

聖は、大きな木に近づいて行った。

そこにナルトがいるという核心はなかったが行くべきだと感じたのだ。

 

聖と宇宙がナルトの部屋を訪れた時、そこにナルトはいなかった。

聖は、自分が捜すので休んでいて下さい、という宇宙の言葉を笑顔でもって却下した。

火影の邸宅は、外見から見える以上に奥深い。

そして、それ以上に庭には木々が自然のまま生い茂っている。

「一緒に捜していても埒があかないわ。二手に分かれましょう。」

「でも、先生。」

「今のあなたの考えるべきことは私のことではないでしょう。」

そうなのだ。

宇宙は、ナルトの世話・教育兼護衛も任されている。

「はい。」

宇宙は、後ろ髪を引かれながらも聖に背を向けた。

そして、聖は別段慌てる様子も見せず眸を閉じ神経を集中させた。

次の瞬間、聖の脳裏に屋敷全ての部屋の様子が流れていった。

「外・・・ね。」

この業は、かなりのチャクラと集中力を要する。

だから、宇宙の前ではやるわけにはいかなかった。

「あの子の心配性には、本当に困ったものね。」

穏やかな笑みを零し聖は、外に足を踏み出した。

 

大きな木の葉や枝のざわめきが自分を手招いていると聖は感じた。

風も吹いていないのにただその木だけがサワサワと揺れている。

「ここにいたの、流涙。」

そして、ナルトはその木の根元でスヤスヤと寝息を立てていた。

月の明りが静かに揺れるように、ナルトの髪が揺れている。

聖が、膝を折りナルトの傍に近寄った。

そして、ゆっくりと肉付きの薄い頬を撫でる。

「ここまで落ち着いているのは、この木のおかげかしらね。」

眠っているナルトに近づけば、ナルトはすぐさま意識を覚醒させる。

一体、こんな風に穏やかに眠れているのはいつ振りなのだろうか。

聖が視線を上へと向けた。

大きな木は、その存在感を否応無しに見せつける。

一体、どれだけの刻をこの木は生きているのだろうか。

聖が子供の頃から、この木はここに生きていた。

その存在感は、今となんの変わりはない。

「そういえば、あの狐は元気かしら。」

聖は、幼き頃この場所で怪我をした子狐の手当てをした。

数日手当てに通っていたが、その子狐は元気になったのかいなくなっていた。

「元気だと良いのだけれど。」

聖は、ナルトに慈愛に眸を向け、穏やかに柔らかい金色を撫でた。

そうして、聖もゆっくりと眸を閉じた。

 

次に聖が眸を開いた時、聖の目に宇宙の蒼白な顔が映し出された。

「ひどい顔ね。」

力なく微笑む聖に宇宙を、少しばかり安堵した。

「先生、大丈夫ですか?」

「あまり声をたてないで、流涙が起きてしまうわ。」

聖の膝の上に頭を乗せナルトは、まだ夢の中だ。

「先生、お身体に障ります。部屋に戻りましょう。」

聖の病は、はっきりとしたことがわからない。

わかっているのは、安静にしていないといけないということだ。

屋敷の外に出ることはなく、この庭にでさえ足を踏み入れたのは、数ヶ月振りなのだ。

「この木の下は、とても心地良いの。」

だから、あなたが近づいても流涙が起きない、ナルトは護られているかのように眠っている。

「可愛いですね。」

「えぇ、とてもね。」

穏やかな陽射しが三人に降り注いでいる。

こんな風にいつもナルトが穏やかに眠れれば良いと思う。

だが、それは無理な話だ。

遅かれ早かれナルトは、必ず忍になる。

忍になるということは、いつも危険と隣り合わせだということだ。

『忍とは、忍び耐える者』

小さな月に、実態の無い無限の闇が覆い被さっていくのだろうか。

それとも、その闇に一筋の月の明りが照らされるのだろうか。

 

 

 

温かい空気に包まれナルトは、夢を見ていた。

大きな木の下で自分よりも少し大きい女の子が怪我をした子狐の手当てをしていた。

ソッと近づくがどうやらその子にナルトの姿は見えないらしい。

女の子が去った後、子狐がナルトにゆっくりと近づき擦り寄った。

「痛くない?」

言の葉にならないはずの想いがナルトの口から零れる。

「あぁ、もうすぐ治る。」

子狐の話し方は、なんだか大人の口調だった。

「良かったぁ。」

月の明りが零れるような笑顔に子狐は、少し悲しそうに鳴いた。

「お前は、痛くないのか?」

「そういうの、よくわからない。」

「そうか。」

「うん。」

ナルトが膝を折り子狐の頭を撫でると子狐は、ナルトの頬をペロリと舐めた。

「お前は、温かい。だから、大丈夫だ。」

温かさに包まれているのだろうナルトの身体は、優しさで溢れているように見えた。

「私の存在がお前を苦しませるかもしれないが、私はお前の敵ではないよ。」

子狐の言葉にナルトは、首を傾げる。

「存在?」

「そこに在るということだ。」

「いてもいいの?」

ナルトは、皆がそう望むのなら消えてもいいと思っていた。

在っても無くても変らないのであればそこに在る必要もないだろう。

「お前の存在が私の存在になるのだからな。」

子狐が小さく鳴いた。

「もうすぐ闇が迫ってくる。お前は在るべき場所へ戻れ。」

「在るべき場所?」

「あぁ、自分の手で在るべき場所を手に入れろ。」

「よくわからない。」

「今はそれでいい。お前の時間はちゃんと流れる。」

自分を手当てした女の子の温かさがナルトをちゃんとした時間の流れに戻してくれる。

最後に子狐は、ナルトのお腹に擦り寄り何かを贈り込むように息を吐いた。

その瞬間、ナルトの体内に温かく冷たいチャクラが流れ込みその場からナルトが消えた。

「あと・・・数十年後か。人とは愚かで・・・愛しい者だな。」

そして、その日を境に女の子はその子狐と会うことはなかった。

 

 

 

ナルトが、目を覚ましたのは自分のベッドの上だった。

まるで導かれるようにナルトは、大きな木の傍にいたはずだった。

ナルトは、周りを見渡しちょこっと首を傾げる。

部屋の中にそして、自分から聖と宇宙のなんていうか流れを感じた。

そして、ナルトはお腹を撫でた。

なんだか、少し温かい感じがした。だけど、冷たい感じもした。

『よく、わかんない。』

だけど、ナルトはいろんなことを知らなくてはいけないのだと本能的に感じていた。

夢で感じたあの温かさをナルトは、知っている。

あの温かさを信じても大丈夫なのだろうか。信じたい。だけど、不安で堪らない。

『自分の手で在るべき場所を手に入れろ。』

あの子狐の言葉がナルトの脳裏に深く刻まれていく。

 

続く