闇に呑まれる月・月に照らされる闇 八
毎朝宇宙は、ナルトの部屋に足を進める。
「今日もいないか。」
最近やっとナルトが部屋の中にいても宇宙は戸を開けることが出来るようになった。
それでも、まだ宇宙がナルトに触れると暫し固まる。
「また、あそこだろうな。」
宇宙は、目的の場所の方に身体を向け歩き始めた。
ナルトは、書庫にいた。
大きな木の下で眠って以来ナルトは、自ら学ぶという姿勢を見せ出した。
「やっぱり此処にいた。」
少し前のナルトなら宇宙が入ってくることさえ拒んでいた。
最近本当に少しだけだが、ナルトの周りの結界が緩くなってきている。
そして、宇宙が迎えに来ることにもナルトは慣れてきているのだろう。
視線を本から外さない。
「ん?」
宇宙は、ナルトの読んでいる本が昨日と変わっていることに気がついた。
そして、いつも身近に置いていた辞書がないことにも気がついた。
それでも、ペラペラとナルトは本のページを捲っている。
「ナルトちゃんと意味を理解して読んでる?」
自分が納得するまでいつもナルトが書庫から出ることはない。
だから、宇宙はナルトの正面に座りそこらにある本を捲りながら聞いてみた。
勿論、返答はない。
「相変わらず、すごい集中力だな。」
それに、ナルトは火影邸に来てまだ一言も話していない。
というか今まで生きてきてちゃんとした言葉を発したことはないのだ。
それでも、他人の言葉はちゃんと耳に響いていたようだ。
辞書をもう手元に置いていないことから察するにもう意味も理解しているのだろう。
「吸収力もすごいな。」
宇宙は、ナルトの傍を離れることはほとんどない。
朝は部屋まで迎えに行き、夜は部屋まで送る。
それの繰り返しである。
書庫は、持ち出し厳禁の本や資料もあるため地下に奥にある。
勿論、厳重に鍵と称して術もかけてある。
まさか、その場所をナルトが探し出してしかも本を読んでいるとは想像もしていなかった。
「見つけた時は、驚いたよ。」
金色の光が揺れるのを見つめながら宇宙は、ナルトに優しい眸を向けていた。
『ナルトには、ちゃんと朝昼晩とご飯を食べさせてね。』
そんな宇宙の頭に唐突に聖の言葉が浮かんだ。
そして、宇宙は勢いよく立ち上がった。
聖の言葉は、絶大だ。
それにちゃんとご飯を食べさせないといけないことはちゃんと宇宙もわかっている。
「ナルト!」
宇宙は、ナルトを抱き上げた。
それも毎度のことで、まだ一瞬触った瞬間体が強張るがすぐに柔らかくなる。
「ナルト朝ご飯の時間だ。本は置いて行きなさい。」
ナルトの手には、しっかりと本が握られ大きな蒼色の眸がジッと宇宙を見つめる。
「駄目だ。そうでなくてもそれは持ち出し厳禁の本なんだぞ。」
ナルトは、シュンとしながらもその本を置いた。
ナルトがそんな風に感情を現すようになったのも最近だ。
思わず宇宙の表情が綻ぶ。
そして、ナルトの柔らかい髪にソッと唇を落とした。
「また、お昼ご飯まで此処で本を読めばいい。」
ナルトは、宇宙の腕の中で小さく頷いた。
朝ご飯を食べ終り二人が書庫に戻ろうとした時だ。
「流涙。」
ナルトが聖に呼び止められ宇宙も振り返った。
「たまには日光浴も必要よ。」
宇宙がニッコリと微笑む聖からナルトに視線を移すと戸惑うナルトが眸に映った。
どうやら、本も読みたいけど聖の誘いを断るのも、と思っているらしい。
「ナルト。」
宇宙が呼びかけるとナルトは、小さく首を傾げた。
可愛いな、と思いつつ宇宙は思ったことを口にした。
「あの大きな木の下で森林浴をしながら本を読むといい。」
ナルトは、大きく頷いた。
「ただし、持ち出していい本を選ぶんだぞ。」
ナルトは、再度大きく頷き書庫に本を取りに向った。
そんな二人を聖は、やわらかく微笑みながら見ていた。
「聖先生も行くのでしょう?」
「えぇ、あの木の下にいるととても体調が良いですからね。」
「なら、お昼はお弁当が良いですね。」
「そうね。」
火影邸の料理人は、かなりの腕前だ。
ナルトに対しても偏見なく出される食事はいつも栄養バランスが考えられている。
「あの子が笑ってくれたら良いですね。」
ナルトの背中を見つめながら宇宙が呟いた。
表情が現れ出したといってもほんの少しで、まだナルトの笑顔を見たことがない。
そして、泣き顔も見たことがない。
「焦らずゆっくり待てばいいのよ。」
「はい。」
そして、宇宙はナルトの後を追い駆けた。
今日は、珍しくナルトは宇宙の膝枕でお昼寝をした。
続く
平成17年11月17日