に呑まれるに照らされる闇  

 

 

今日は、火影が忙しい合間をこっそりと抜けてナルトの姿を見に火影邸に帰っていた。

「ナルト、ナルトはどこじゃ。」

落ち着きなくその場でウロウロする火影に聖は、盛大に溜息を吐いた。

「なんじゃ。」

「いえ、なんでも。」

音もなくお茶をいただく聖の仕草には、無駄がない。

火影は、足を止めて椅子に腰掛け入り口の方に視線を向けた。

 

まだ、その扉は開かれない。

 

ナルトは、火影邸の書庫にある本を全て読み終わっていた。

そして今は、宇宙に実戦でもってその内容を理解していっている途中だ。

ナルトは、本から得た知識だけが全てではないということを本能的にわかっているようだった。

「本当にナルトはのみこみが早いな。」

そう言って宇宙がナルトの金糸を撫でればナルトは、オズオズとだがほんの少しだけ顔を緩ませるようになっていた。

宇宙は、まだ完全な笑顔とまでいかないがその少しの表情の変化がとても愛しかった。

「さぁ、ナルト着替えようか。火影様が待っている。」

火影と聞いてナルトは、思考を巡らせた。

それは、自分を此処に連れてきてくれた人の名だ。

その名がどういう意味を持っているのかは、歴史の本で学んだ。

 

それは、裏表なく真実のみが記された歴史の本であった。

 

その内容は、ナルトを困惑させるどころかひどく納得させた。

そしてナルトは、これからの自分の在るべき道について一人考え始めていた。

 

穏やかな風が緑を揺らし蒼空は、高く遠く広がっていた。

「少しは落ち着いたらどうです。」

聖は、ここ何十年も見られなかった火影の落ち着きのない様子にふわりと微笑んだ。

聖のそんな微笑みを見たのもこれまた何十年振りで火影は驚いた。

「ふむ、これもナルトの影響かの。」

 

---- ギィ

 

火影は、扉が開く音と共に振り向いた。

そこには宇宙が立っていた。

「なんじゃ、宇宙か。ナルトはどうした?」

あからさまに落胆している火影に宇宙は、苦笑を隠せない。

「ご無沙汰しております、火影様。」

「うむ。で、ナルトは?」

宇宙は、扉の向こうで手招きをした。

「大丈夫ナルト。よく似合ってるよ。」

『本当?』

とでも言うように首を傾げるナルトは、可愛すぎである。

「本当、今すぐにでも抱き締めたいくらいだよ。」

恥ずかしげもなくそんな言葉を口にする宇宙は、大真面目だ。

ナルトは、ピョッコリと顔だけを扉から覗かせた。

「おぉ、ナルト。久しいの。元気だったか。」

駈け寄ろうとする火影を聖が止めた。

「流涙が自分から傍にくるまで近寄らないで下さいませ。」

丁寧な言葉だが、かなり重圧的だ。

聖は、いつもナルトに選ばせているのだ。

自分に敵意があるのかないのか、それをナルトはこれから見極めていかなくてはならないからだ。

まだ言葉を発することの出来ないナルトは、姿を火影の前に現し礼儀正しく頭を下げた。

その姿に呆然としたのは火影だ。

「聖よ。」

「なんでしょう。」

「あれは、宇宙の趣味か。」

「そんなわけないでしょう。でも気に入ってはいるみたいですけど。」

その会話に宇宙は、仄かに頬を染めてそっぽを向いた。

「なぜあのような格好を?」

ナルトは、緑に淡い黄と橙を散らした着物にはっきりとした色合いの帯を締めていた。

髪には帯と同じ色の簪が飾られていた。

「似合いますでしょう。」

「そうじゃな。よぉ似合う。」

「ほら昔から病弱な男の子には、小さい頃に女の子の格好をさせると丈夫に育つ、っていうでしょうに。」

ナルトは、別に病弱というわけではないのだが丈夫に育って欲しいという聖の想いがそうさせていた。

「なぜに着物?」

「今日は、あなたがいらっしゃるから特別です。いつもは洋服も着ておりますよ。」

そう言って聖は、秘蔵収集をまとめたアルバムを取り出した。

「見たいですか?」

「ん・・・見たい。」

「そうですか。そこまで言うなら。」

そう言って聖は、どっどぉ〜んとそれを広げて以下にナルトが可愛いかを語り始めていた。

 

 

それに参加したかった宇宙だが、二人に圧倒されその場に呆然と立っていた。

---ッグイ、グイ

袖を引っ張られ視線を視線を下に向けるとナルトが二人の方を指差した。

どうやらあの二人の傍に行きたいらしい。

「どうぞ、行きなさい。」

宇宙の言葉にナルトは、暫し考えて両手を宇宙に向って伸ばした。

「・・・抱っこですか。」

宇宙が微笑むとナルトは、コクンと頷き簪に付けられている鈴がチリンとなった。

着物に慣れていないナルトは、動きづらいらしい。

宇宙は、ナルトを優しく抱き上げ二人に歩み寄った。

それに気がついた火影は、自分の太股をポンポンと叩き。おいで、と腕を伸ばした。

その腕の温かさを知っているナルトは、宇宙の腕の中から火影の膝の上へと移動した。

そして、宇宙も椅子に座り一緒にナルトの可愛さを堪能し始めた。

 

 

ナルトは、そんな三人を眺め辞書に載ってあった『穏やか』という言葉を思い出していた。

 

 

続く

平成18年8月31日

10(考え中)