一途
髪を切ったばかりのキンタローが書類の整理をしていた。
だいぶ気性も穏やかになってきたが、それでもシンタローに対しては怒りの感情をぶつけていた。
「キンちゃん少し休憩したらぁ」
そこにグンマが現れキンタローにコーヒーを差し出した。
甘い匂いにキンタローは、怪訝な顔を見せた。
だが、甘いのはキンタローのコーヒーではない。
グンマの蜂蜜入りキャラメルラテだ。
キンタローは、コーヒーを一口含んで動きを止めた。
「どしたのキンちゃん」
「いや・・・時折コーヒーの味が違うな、と」
「そう?」
「気のせいか?」
「疲れてると味も変わってくるって言うからね」
「そうなのか?」
「そうだよ」
グンマは、キンタローの疑問を軽く流し美味しそうに甘い蜂蜜入りキャラメルラテを飲んでいた。
そんなやり取りの数分前 ―――――
グンマは、足取り軽く給湯室へと向かっていた。
「いい匂い♪」
研究室の給湯室は、台所と言ってもいいくらいの設備だ。
「シンちゃん」
グンマが顔を覗かせればシンタローが総帥服ではなく私服で立っていた。
「よぉ、グンマ。もう少しで出来るから待ってろ」
「うん」
シンタローは、遠征から戻ると必ずお土産と共にお茶をグンマにいれている。
『やっぱりキンちゃんの分もある』
グンマは、椅子に座ってシンタローの作業を見ていた。
キンタローが研究室にいるようになってからシンタローはキンタローのお茶もいれるようになった。
「グンマ」
「なぁに?」
「いや、あの、そのな・・・」
いつもはっきりと物を言うシンタローの歯切れが悪い。
グンマは、そんなシンタローの心中を察してにっこりと笑った。
「いつも美味しそうに飲んでるよ」
「そうか」
「うん。シンちゃんのいれてくれるお茶は美味しいに決まってるしね」
「ありがとよ」
グンマの言葉にシンタローの表情が緩む。
そんなシンタローを見てグンマも嬉しくなる。
だけど、面白くないこともある。
「ねぇ、シンちゃん」
「なんだ」
「シンちゃんってキンちゃんに甘いよね。僕には厳しいのにぃ」
「俺は、お前にも甘いだろ」
「どこがぁ、よく殴るじゃない」
「ちゃんと手加減してる」
シンタローは、ちゃんとグンマも甘やかしている。
それは、グンマ好みのお茶をいれることからでもわかるだろう。
「シンちゃんってさ、キンちゃんになら殺されてもいいって思ってるでしょ」
笑顔でそんな言葉を言うグンマにシンタローも笑顔で応える。
「あぁ、そうだな」
「シンちゃんって色々背負い過ぎ」
「まぁそう言うな。ずっとあいつを閉じ込めていたのは、俺だからな」
「シンちゃんのせいじゃないじゃない」
グンマは、ぷぅっと頬を膨らませる。
そんな子供じみた行為にシンタローは、また笑う。
シンタローは、膨らんだグンマの頬を人差し指で突っついた。
「それでも俺にも責任がある。それに殺されるにしてもそう簡単には殺されねぇよ」
グンマは、その言葉は嘘だと直感的に感じていた。
きっとシンタローは、簡単にキンタローに自分の命を捧げるのだろう。
「ほらよ、出来た」
シンタローは、二人分のお茶セットをグンマに渡した。
「シンちゃん、ありがと」
グンマは、シンタロに歩み寄りシンタローの頬に唇を寄せた。
「グンマ、落とすなよ」
「落とさないよ」
グンマのそんな行為に慣れているシンタローは、頬を赤らめながらも平静を保っていた。
「昔はもっと慌ててたのにぃ」
「しるか」
グンマは、テーブルに渡されたお茶セットを置いて再度シンタローに近づいた。
「じゃ、今度からはこうするね」
――――― ちゅっ
「ぐ、ぐ、グンマぁ!」
シンタローは、手の甲を自分の唇にあてた。
「シンちゃん、お茶ありがとう」
グンマは、素早くお茶セットを手に取ってにっこりと笑って給湯室から出た。
残されたシンタローは、椅子に座って疲れたようにテーブルに顔を伏せた。
「不意打ちは、卑怯だろ」
色恋沙汰には、慣れていないシンタローなのです。
グンマは、嬉しそうに笑ってキンタローに言った。
「キンちゃん」
「なんだ」
「そう簡単にはいかないからね!」
「?」
当然キンタローにはなんのことだかわからない。
終了
平成20年11月23日