お疲れ様

 

 

先日シンタローは、遠征先から本部へと戻って来た。

それから数日、シンタローは総帥室にこもっていた。

好きでこもっていたわけではない、目を通す書類が多すぎて自然とそうなってしまったのだ。

「さすがに疲れたな」

シンタローは、真っ赤な総帥服を身に纏い一族専用のエレベーターまで歩いていた。

かなり眠たそうだったがシンタローは、なんとかエレベーターまで辿り着いた。

「だぁ、まじねみぃ」

ボタンを押し、開かれたエレベーターに足を踏み入れたシンタローは、壁にもたれかかった。

一族専用だからこそ力が抜けたのか気が抜けたのかシンタローは耐え切れず目を閉じた。

それは自分の目的の階につけば開けるはずだったのだ。

しかし、目的の階についてもシンタローは降りようとせず、そのまま扉は閉じられた。

 

 

 

エレベータの扉が開き足を進めようとしたキンタローは、足を止めた。

「なぁに、どうしたのキンちゃん」

キンタローの後からグンマがエレベーターの中を覗き込んだ。

「あれぇ、シンちゃんだぁ」

キンタローとグンマの目には、地面に座り込み壁にもたれかかって眠っているシンタローがいた。

「こいつはなにをしてるんだ」

「眠ってるねぇ」

まだシンタローに対して敵対心があるキンタローは怪訝な目でシンタローを見下ろしていた。

グンマは、膝を折ってシンタローの顔を覗き込みながらシンタローの頬を突っついた。

「シ〜ンちゃん・・・起きないねぇ」

とりあえず二人は、エレベーターに乗り込みボタンを押した。

三人とも降りる階は、同じなのだ。

グンマは、ずっとシンタローの隣で座り込んでいた。

「シンちゃん、もう着くよ」

身体を揺らしてもシンタローは起きない。

グンマは、シンタローの頬に人差し指を滑らせた。

「シンちゃん少し痩せた、クマの出来てるし、疲れてるんだね」

そうこうする内にエレベーターは、目的の階に着いてしまった。

キンタローは、シンタローに背を向けエレベーターを降りようとしたが降りられなかった。

「なんだ?」

グンマがキンタローの腕を掴んでいたのだ。

「キンちゃん、シンちゃんを運んでよ」

「なぜ俺が?」

「だって僕だとシンちゃん運べないもん」

「放っておけばいいだろ」

「駄目」

相手がシンタローでなければキンタローも素直にグンマに従ったかもしれない。

少し前までの殺伐とした感情は、キンタローの中で薄らいでいた。

しかし、それでもまだシンタローと馴れ合えないキンタローがいるのだ。

「シンちゃん疲れてるんだから、運んであげてよ」

「自分の健康管理くらい自分でちゃんとするべきだろ」

「キンちゃんだって今シンちゃんが大変なこと知ってるでしょ」

それくらいキンタローだってわかっていた。

だからキンタローは、グンマに頼まれて渋々といった感じで眠っているシンタローを抱き上げた。

シンタローは、なんの違和感なくキンタローの腕の中におさまった。

「ん〜・・・」

シンタローは、身を捩りキンタローの胸に擦り寄った。

その仕草にキンタローの胸が少し高鳴った。

『な、なんなんだ』

「お父さまが今日いなくてよかったねぇ」

自分の動揺を抑えキンタローは、グンマに問いかけた。

「なぜだ?」

前を歩いていたグンマは、手を後で組んでいてそのまま振り返った。

「そんな状態のシンちゃんを見つけたら絶対お父様自分の部屋に連れ込むよ」

「連れ込む?」

「そう、お父さまってシンちゃん大好きだから、きっとあんなことやそんなことまでしちゃうよ」

「あんなことやそんなこと?」

「うん。シンちゃん起きそうにないし、あっきっとお父さまが留守だって知ってたんだね」

「グンマ、だからあんなことやそんなこととはなんだ?」

「キンちゃんそれを聞くのぉ?」

キンタローは、疑問に思ったことはちゃんと聞くようにしていた。

キンタローの腕の中では、シンタローが穏やかにスヤスヤと寝息をたてている。

 

グンマの言葉を聞いてキンタローは絶句した。

「叔父上は、そんなことをこいつにするのか?」

「うん、絶対するね。写真も撮っちゃうだろうねぇ」

キンタローは、シンタローの中にいた時のことを断片的に思い出していた。

「確かに、こいつは溺愛されていたな」

「でしょう。シンちゃん可愛いもん」

「可愛い?」

キンタローは、その言葉と共に視線を腕の中のシンタローに移した。

確かにシンタローは、可愛かった。

しかし、それを認めるわけにはいかないキンタローは、ブンブンと頭を左右に振った。

「キンちゃん?」

「なんでもない」

「シンちゃん可愛いからきっと遠征先でも狙われてるんだろうねぇ」

「こいつの命は、俺のものだ」

キンタローの言葉は、捉えようによってはものすごい意味だ。

当然キンタローは、そんなことには気がつかない。

「キンちゃん違うよ。そうじゃなくてぇ、恋愛対象でってこと」

キンタローは、歩く足を止めた。

そして眠るシンタローに再度視線を落とした。

「でもシンちゃん気がつかないだろうし、気がついても相手にしないと思うよ」

再度歩き始めたキンタローは、やけに部屋までの距離が長く感じていた。

「あっ、でも今みたいな状況だと抵抗以前の問題だよねぇ」

シンタローは、必ず今みたいな状況にはならないとちゃんとグンマは知っていた。

今は、完全に安心しきっているのだ。

遠征先では、そんなことはあり得ない。

「シンちゃん、やっぱり疲れてるんだね」

シンタローは、自分が認めた者以外傍におかない。

「シンちゃんって結構一人で抱え込むもんね」

キンタローは、知っていた。

シンタローがそうそう手を抜かないことも一人で抱え込むということも24年間ずっと一緒にいたのだ。

 

 

 

「お疲れ様、シンちゃん」

グンマは、シンタローのおでこに唇を落とした。

自分のベッドに寝かされたシンタローは、一度も目覚めることなく眠っている。

「さってと、行こうかキンちゃん」

「あっ、あぁ」

疲れて眠るシンタローを見ながらキンタローとグンマは、シンタローの寝室を後にした。

「キンちゃんもお疲れ様ぁ。おやすみぃ」

「あぁ、おやすみ」

グンマとわかれて自分の部屋に戻ったキンタローは、疲れて眠るシンタローを思い出していた。

 

終了

平成21118