ポケットの中で

 

 

薄っすらと白色に覆われていく地面にちらほらとまた白色が重なって、既に土色は見えなくなっていた。

 

「う〜さびぃ」

そんな光景の中の公園の背もたれのないベンチに葵は、身を縮めて座っていた。

サングラス越しでも白色がゆっくりと揺れているのが分かる。

 

そんな葵の背後から静かに忍び寄る影。

 

瞬間、葵の両頬に冷たい手が触れた。

「!!!」

葵は、少し身震いさせて背筋を伸ばした。

そして、勢いよく振り向いた。

「冷たいだろうが!わぴこ!」

葵の目には、大口を開けて笑うわぴこがいた。

「葵ちゃん、びっくりした?驚いた?」

「たく・・・散々待たせて、これかよ」

「ごめんねぇ」

わぴこは、ベンチをピョンっと跨いで葵の横に並んだ。

「いいけどよ。どうせ雪遊びしてたんだろ」

「うん」

「楽しかったか?」

「うん」

「ならいいさ」

葵は、毛糸の帽子をかぶっているわぴこの頭で手をポンポンと軽く弾かせた。

「しかし、お前手袋くらいしろよ」

わぴこの指先は、真っ赤になっていた。

「へへぇ、するの忘れてた」

わぴこは、両手を合わせて指先に温かい息を吹きかけた。

「ほら、これしろ」

葵は、わぴこに自分がしていた手袋を渡した。

「いいよぉ。葵ちゃんが寒いでしょ」

わぴこは、葵にそれを返そうとするが葵は、受け取らない。

「じゃ、こうしようよ」

わぴこは、自分の左手に手袋をはめて、葵の右手にもう片方の手袋をはめた。

「はい、これで大丈夫」

わぴこは、満面の笑みを葵に向けた。

「・・・まぁ、温かいわな」

「でしょう」

鼻を赤くしているわぴこを可愛いと思いつつ葵は、自分のコートのポケットの中の小さな冷たい手を握り締めた。

「葵ちゃんの手、温かいねぇ」

「そりゃ良かった」

寄り添って歩く二人の上空では、まだちらほらと白色が舞っていた。

 

終了

平成23214