安眠
秀一が生徒会室のドアを開くと珍しく葵がフカフカのソファに座っていた。
そのソファは、秀一の反対を押し切って千歳が生徒会の経費で買った高級ソファだ。
秀一は、チラリと壁の時計に目をやった。
時刻は、午後5時を回っていた。
「この時間に学校にいるなんて珍しいね」
葵は、何も言わなかったがサングラスの奥の目が『うるせー』と言っているようだった。
「タイムサービスの時間だろ」
秀一は、進めていた足をふと止めた。
そして、葵の膝に目をやった。
「あぁ、なるほどね」
フカフカのソファに身を沈めわぴこが葵の膝を枕にしてスヤスヤと眠っていたのだ。
わぴこには、葵の上着がかけられていた。
「ここにいたんだ、わぴこ」
秀一は、持ってきた書類に目を通しながら二人の向かい側のソファに座った。
「かくれんぼの途中だったらしいよ。皆、捜してた」
「ふぅ〜ん」
葵は、興味なさそうにわぴこの頭を撫でていた。
「僕が見つけておくってことで皆には、帰ってもらったけどね」
「そりゃ賢明だな」
おとなしく葵の膝の上で安眠しているわぴこの寝息が二人の耳に心地よく響いていた。
「で、わぴこは、いつから眠ってるのかな?」
「知らねぇ。起きたらいたからな」
生徒会室には、心地よい木漏れ日が入ってくるのだ。
千歳がいない日を狙って葵は、生徒会室でくつろいでいるのだ。
一応、葵とわぴこも生徒会役員だということを忘れてはいけない。
「そろそろ帰ろうか」
「だなぁ」
葵がわぴこの肩を揺らした。
「おいっ、わぴこ起きろ。帰っぞ」
「ん〜・・・かくれんぼは?」
「わぴこが眠ってたから皆には、先に帰ってもらったよ」
「うにゅ〜・・・そっかぁ」
わぴこは、目を擦りながら起き上がりソファにちょこんと座った。
まだ完全には、目が覚めていないようだ。
「葵ちゃ〜ん」
わぴこが甘えるように両手を葵に差し出した。
どうやら立たせてということらしい。
「立たせてやるけど、お前ちゃんと自分の足で歩けよ」
「うん、歩く」
葵は、わぴこの両手を掴んでわぴこを立たせた。
眠たいのかわぴこは、少しフラフラしていた。
葵と秀一は、わぴこの両脇に立って歩いた。
「ほれ、わぴこしっかり歩け」
「この分だと、夕ご飯食べないまま、また眠るかな」
わぴこは、夕ご飯のという単語にピクッと反応した。
「夕ご飯、食べる。食べるよ」
「早く帰ろうか」
「うん、帰る」
夕ご飯という単語で目が覚めたのか、わぴこは、二人の腕に自分の腕を絡めてピョンピョン跳ねていた。
終了
平成24年5月17日