絶対いるの

 

 

今日も元気にわぴこは、飛び起きた。

「今日こそは絶対見つけるんだから。」

そして、その勢いのままわぴこはお隣りの家の葵の部屋に窓から侵入を果たした。

葵が人の気配を感じて薄っすらと目を開けると、目の前にはわぴこの顔があった。

先日わぴこは、葵に怒られた。

「お前来るのはいんだけど、もうちょい静かに来い。」

朝の弱い葵にしてみれば朝からあまり騒いで欲しくないのである。

わぴこは、その言葉を忠実に守り、眠る葵の傍らでじっと葵の目が開くのを待っていたのだ。

暫くの間、二人は見詰め合っていた。

まだ、寝惚けている葵の眸にはわぴこが映っているのだが映っていない。

「はよう、葵ちゃん。」

「ん〜・・・。」

わぴこが笑顔で挨拶をしても葵は、枕に自分の顔を埋めてはっきりと目覚める気配がない。

「お・は・よ・う!葵ちゃん。」

わぴこは、息を大きく吸い込み葵の耳元で叫んだ。

これには、葵も堪ったものではない。いくら聞き慣れているといっても耳元はきつい。

葵は、両耳を押さえながらムクリと起き上がった。

「うるせぇよ・・・。」

「目ぇ覚めた?」

「あぁ。」

「おはよう、葵ちゃん。」

「・・・はよう。」

わぴこは、葵が挨拶をするまでいつまでも言い続けるのだ。

笑顔のわぴこの頭を一撫でして葵は、着替えを始めた。

「お前、朝ご飯は?」

「ん〜お母さんがお仕事行く前に作ってくれてるから葵ちゃん一緒に食べよ。」

「あぁ。」

ちなみにわぴこと葵の両親は、もう仕事に出かけている。

今年で十歳になる二人は、幼い頃から一緒にいる。

「そういや、今日秀は?」

「秀ちゃんは、調べごとがあるから図書館に行くんだって。」

「朝のはよからご苦労なこって。」

もう一人のいつも一緒にいる秀一もだが葵は、わぴこにきついことも言うが甘い。

「で?今日も何朝から気合入ってんだ?」

朝食を済ませ二人で後片付けをしながら葵は、わぴこに訊ねた。

「今日こそ見つけるの!」

「一応聞くが何を?」

「ペンギンさん!」

なぜだかわからないがわぴこは、異常なまでにペンギンに興味を示している。

絶対にいると力を込めるわぴこにつき合わされ葵は、幾度となく町内を彷徨った。

『秀一のやつ逃げたな。』

葵がそう思った頃、秀一は図書館でクシャミをしていたとか。

「絶対いるの!」

「はいはい。その前に此処に座れわぴこ。」

「うん。」

これまた慣れた手つきで葵は、わぴこの髪を梳かし結び始めた。

「おっし、完了。」

「ありがとう、葵ちゃん。」

そうして二人は、ペンギン探しのために家を出た。

 

しかし、そう簡単にペンギンが見つかるわけもない。

「ねぇ〜葵ちゃん。ペンギンさんは?」

わぴこは、葵の服を掴み引っ張っている。

葵は、スタスタと歩き一応周りを確かめている。

その途中いきなり後ろに引っ張られた。

「どうした、わぴこ?」

葵の服を掴んでいるわぴこが急に立ち止まったのだ。

「ん〜・・・なんか目ぇ痛い。」

塵が入ったのだろうがわぴこは、目を擦っている。

「お前擦るのは、止めろ。」

葵がわぴこの眸を覗き込もうとしゃがみ込んだ時だ。

ふとわぴこの肩越しの向こう側の通りにトテトテと歩くなにかが目の端を過ぎた。

それは、郵便帽子をかぶり郵便袋を持っている・・・ペンギンだった。

確かにあれは、ペンギンだった。

しかし、今はそれどころではない。

「わぴこ、目開けられるか?」

「・・・うん。」

葵の青味を帯びた眸が赤味を帯びたわぴこの眸を覗き込む。

小さな塵が見えた。だが、眸に指を突っ込むのはどうかと葵は、考えた。

「ジッとしてろよ。」

「ん。」

わぴこの眸に葵は、唇を近づけ塵を舐め取った。

「どうだ?」

「・・・もう痛くないよ。」

「良かったな。」

「ありがとう、葵ちゃん。」

お礼を告げるわぴこの頭を撫でて葵が先程ペンギンがいた通りを見たがもういなかった。

「わぴこ、今日はもう遅いし帰るぞ。」

「え〜ペンギンさんは?」

「違う日にでも探せばいいだろ。」

納得しないわぴこの手を握り葵は、家路に着いた。

ペンギンがいることはわかったのだ。そう焦る事は無い。

「一緒に探してくれる?」

「いつも探してるだろ。」

「うん。」

ニコニコと笑顔のわぴことぶっきらぼうな葵。

そんな二人の後ろをあの郵便ペンギンがトテトテと通り過ぎた。

そのことに二人が気がつくことはなかった。

 

終了

平成16年5月1日