雨降り

 

 

わぴこは、軽くスキップをしながら学校から帰っていた。

その時だ。

わぴこの鼻先に冷たい雫が当った。

「んに、冷たぁ。」

わぴこが空を見上げるとドンヨリとした空から大粒の雫が落ちてきた。

 

―――――ザァー

 

通り雨とは、まさにこのことだろう。

雨に濡れることが好きなわぴこは、濡れることを気にしてはいない。

わぴこの周りを急ぎ足で雨から逃れようとする人たちが通り過ぎる。

「んにゃ?」

そんな慌ただしい足元にわぴこは、なにかを見つけた。

 

 

雨が降り出す直前、葵は、ギリギリセーフといった感じで玄関に飛び込んだ。

飛び込んだ玄関は、わぴこの家だ。

普段からわぴこと葵の両親は、ほとんど家にいない。

そして、秀一の両親は開業医なのでなにかと忙しい。

だから、わぴこと葵そして秀一は、一緒に夕飯を食べるのだ。

「ただいま。」

「お帰り。あれっ、葵一人?わぴこは?」

今日は、秀一が料理当番なので生徒会の仕事も手早く片付け先に帰宅していた。

「一緒じゃないぜ。まだ帰ってないのか。」

葵がガシガシと頭を掻いた。

「そうなんだよ。葵迎えに行ってくれよ。」

「なんで、俺が。」

そう言いつつ葵の足は、既に玄関に向っていた。

「僕は、ちゃんとお風呂沸かしておくから。」

わぴこが雨に濡れることが好きなのは二人ともよく知っていた。

幼い頃から雨が降る度に外に引っ張り出されていたからだ。

 

―――――ザァー

 

屋根を打つ雨音は、更に激しくなっているような感じだ。

 

 

 

葵は、大きい傘を差し学校への道を歩いた。

「さぁって、どこらで濡れてるのかねぇ。あの子猫ちゃんは。」

わぴこが寄り道しそうな茂みや広場などを覗き込みながら葵は、足を進めて行く。

そして、特徴のある色が眸に映り込んだ。

葵が見つめる先には、雨空を見上げているわぴこがいた。

 

 

わぴこは、雨から何かを庇うようにその場に立っていた。

空を見上げれば、雨が止めどなく降り注いでくる。

「んぁ、あ〜葵ちゃんだ。」

しかし、その雨が遮られわぴこが後を振り向くと葵が立っていた。

「おら、帰んぞ。」

 

――ミャァ〜

 

わぴこに帰るように促すと子猫の声がした。

当然わぴこの声では、ない。

その声は、わぴこの腕の中から聞こえる。

ちょうどわぴこの胸と腕に包み込まれるようにその子猫は、いた。

「みーこ見つけたの。」

拾ったと言わない辺り、既にその子猫がわぴこの仲間になっていることを意味していた。

「とりあえず、帰るぞ。」

葵は、わぴこを自分が差している傘に引っ張り込んだ。

「お迎えなのに、傘一本しかないの?」

「あぁん、一本ありゃ十分だろう。」

「そうだね。」

ニヤリと笑う葵につられてわぴこもフニャっと笑った。

「ほら、もっと中に入らないと余計濡れるぞ。」

「もう、濡れてるし大丈夫だよ。それに葵ちゃんが濡れちゃうよ。」

「いつも、雨の中連れ出すくせに何言ってやがる。おら、もっとこっち寄れって。」

「は〜っい。」

わぴこは、良い返事をして葵にピタッとくっ付いた。

それを確認して葵は、わぴこの歩調に合わせて歩き出した。

 

 

わぴこと葵が家に戻ると玄関でタオルを準備した秀一が待ち構えていた。

「もう、こんなに濡れて風邪引くだろ。」

葵にタオルを渡し、わぴこの頭をガシガシと拭いた。

―――――ニャ

そして、秀一は、わぴこの腕の中の子猫に気がついた。

 

雨は、通り雨だった。わぴこと葵が玄関に入ることには小降りになっていた。

 

秀一は、深く溜息を吐いて立ち上がった。

「ほら、わぴこはお風呂に直行。みーこは、こっち。」

なぜか、わぴこの家にいる猫たちは、全てみーことまとめて呼ばれているのだ。

わぴこは、素直に秀一にみーこを手渡した。

「ちゃんとミルクをあげるから、そんな心配そうな顔しない。」

秀一は、人差し指でわぴこの眉間をチョンっと押した。

「わぴこも飲む。」

押された眉間を押さえながらわぴこが秀一に上目使いで訴える。

「はい、はい。ちゃんとホットミルク用意しておくよ。」

「蜂蜜入りね。」

「了解。」

そんなやりとりを横目に葵は、既に家の中である。

 

 

お風呂からあがったわぴこは、足早に台所に向った。

洗ったばかりの髪からは、ポタポタと雫が落ちている。

「ほら、またちゃんと拭いてない。」

椅子に座りホットミルクに口をつけるわぴこの後に周り秀一が髪を拭く。

「さてと、じゃ俺も入ってくるわ。」

わぴこと密着していた葵も実は、わぴこ程ではないにしろかなり濡れていた。

「葵ちゃん背中流してあげようか?」

「バ〜カ、言ってろ。」

「むぅ〜本気なのにぃ。じゃ、秀ちゃんは?」

「遠慮しておくよ。」

葵も秀一も苦笑しながらその場を流した。

 

 

わぴこが雨に濡れるといつもこんな感じである。

雨に濡れても三人が風邪を引くことは、滅多にない。

 

終了

平成17年6月8日