扇風機

 

 

―――あ(濁音)〜・・・

 

クルクルと羽が回る扇風機の前を陣取ってわぴこが大きな口を開けていた。

 

そこに団扇を扇ぎながら葵が近づいて来た。

「おいっと。」

扇風機の後のつまみを妙な掛け声と共に引き上げた。

 

―――ウィ―ン―――ガックン―――ウィーン

 

扇風機の首が動き出し、葵はわぴこの隣に座った。

 

「わぴこの扇風機だよ。」

「いいじゃねぇか。扇風機の独り占め禁止。」

 

葵は、服を掴み扇風機に向ってパタパタと風が入るように手を動かした。

 

「やっぱ、団扇より涼しいな。」

「葵ちゃん、団扇貸して。」

「ん、ほらよ。」

 

―――パタパタパタ

 

「涼しい?」

「あっ?」

「ねぇ、涼しい?」

 

―――パタパタパタ

 

扇風機の風と共にわぴこからの風も葵の髪を揺らしている。

 

「あぁ、涼しい。」

「扇風機よりも?」

 

頑張って手を動かしているわぴこの額は、少し汗ばんでいる。

葵は、自分の首にかけていたタオルを手に取りわぴこの汗を拭き取った。

 

「ん、涼しいけどさ。それじゃわぴこが暑いだろ。」

「いいの。わぴこは、扇風機で涼むから。」

「あっ?」

 

わぴこは、扇風機の後のつまみを手の平でポンッと押し込んだ。

それと共に扇風機は、左右に動くのを止めた。

わぴこは、固定された扇風機の前に座り再度葵を扇ぎ始めた。

 

「ずりぃぞ。」

「ずるくないよ。だって、葵ちゃんこれでも涼しいって言った。」

「言ったけどよ。」

 

葵は、少しでもわぴこの行動が可愛いなどと思ったことを後悔した。

だけど、わぴこはちゃんと手を動かしているわけで、やっぱり可愛いと思う。

 

「疲れないか、それ。」

「疲れるよ。」

 

数分後、わぴこの手の動きが緩やかになってきた。

 

―――ブゥ―ン

 

風力を中にしている風は、横向きのわぴこの髪を一定方向に流している。

葵は、その髪を押さえつけ扇風機の前に座った。

即ち、わぴこを後から抱き込む体勢になった。

 

「ほら、正面向け。」

 

二人の髪が後ろになびいておでこ丸出しになる。

 

「「―――あ(濁音)〜・・・」」

 

そして、二人して扇風機に向って大きな口を開けた。

わぴこの背中と葵の胸がピッタリくっ付いて汗ばむが気にしていない。

葵は、わぴこの旋毛に顎を乗せ、扇風機の風を堪能している。

わぴこは、わぴこで両手足を投げ出して葵にもたれかかっている。

 

『絶対動かした方が涼しいだろ。』

 

葵は、そう思いつつ口には出さずわぴこを抱き締めた。

 

終了

平成17年8月3日