両手に温もり

 

 

右手に金色握り締めて

左手に黒色握り締めて

 

金色も黒色も明るい緋色の手を握り返す

 

 

野山を駆け回るなんて日常茶飯事でいつも夕暮れに促がされるまで遊んでた。

「葵ちゃん、秀ちゃん。」

後ろからついて来ていたわぴこに名を呼ばれ二人は同時に立ち止まり振り返った。

「「どうした(の)わぴこ。」」

その場から動かずスカートをギュウッと握り締めているわぴこに二人は歩み寄った。

「痛いの。」

わぴこは、足を一歩前に出して身体を前に出したがクンッと頭が引っ張られていた。

どうやら髪が木の枝に引っ掛かってしまっているらしい。

「あ〜、わぴこ暴れちゃ駄目だよ。」

わぴこは、無理に絡まった髪を外そうとして余計にがんじがらめにしていた。

「これ外せるのか。」

葵が秀一に視線を向けた。

「一応やってみるよ。」

わぴこは、ジッと我慢で外れるのを大人しく待っていた。

「そういや、この前は俺の服のボタンに絡まったな。」

ツインテールの枝に引っ掛かっていない方のわぴこの明るい緋色の髪を葵が指に絡める。

「わぴこ。」

「秀ちゃん外れた?」

わぴこが顔を振り向かせようとして秀一に止められた。

「まだ外れてない。かなり複雑に絡んでて外れないんだよ。」

「一度家に戻ってハサミ持って来るか。」

葵の言葉に秀一も同意して秀一がその場を離れようとした。

しかし、右手をしっかりと握られていて動けないでいた。

「わぴこ?」

「いや。」

「わぴこ切らないとここから動けないぞ。」

葵は、わぴこの頭を撫でながら顔を覗き込んだ。

「いやなの。」

ブンブンと顔を左右に振る度にわぴこの髪がブチブチと切れていた。

「むぅ〜・・・痛い。」

それはそうだろう、と葵と秀一は顔を見合わせた。

いつの間にやら葵の左手もしっかりとわぴこに握られていて葵も動けないでいた。

「わぴこ。」

秀一の声にわぴこの肩がビクッと揺れる。

「だって・・・置いていかれるのは嫌なんだもん。」

わぴこの二人の手を握る力がより強くなる。

「俺も秀一もわぴこを置いて行ったりしないって。」

「わかってるよ。」

「なら・・・」

「でも、やなんだもん。」

大きな潤んだ眸に二人は、諦めの息を吐いた。

「しゃーねぇな。」

「枝の方折ろうか。」

結構な太さの枝だったが小学六年生といえど男の子だ。

二人がかりで何分か格闘してその枝を折った。

髪から枝をぶら下げてわぴこは、笑顔で二人の手を握っていた。

「ありがとう、葵ちゃん、秀ちゃん。」

「「どういたしまして。」」

二人もわぴこの手をギュウッと握り返して家路へとついた。

 

 

枝に絡まっていた髪は、本当に複雑だったらしくわぴこは髪を切らなければならなくなった。

「やだ。」

わぴこは、散髪用ハサミから逃れるように葵と秀一に抱きつき二人の後に回った。

「ほら、わぴこちゃん切らないとずっと枝ぶら下げたまんまよ。」

秀一の母親が優しく諭すがわぴこは、二人にしがみつき切らせようとしない。

「髪なんてまた伸びるだろ。」

葵が突き放すように口を開くが身体は、わぴこを庇っている。

「きっと短い髪も似合うよ。」

秀一がわぴこが納得するように促がすがわぴこは聞く耳持たずだ。

「やだ。」

「なんで?」

「だって、葵ちゃんと秀ちゃんがわぴこの髪長いの好きだって言ってくれたんだもん。」

 

わぴこの髪の色は、かなり珍しい色だ。その所為で幼い頃は、苛められたりもした。

葵の髪の色も日本では、珍しい方だが子供の標的は、いつもわぴこだった。

好きだから気になるから苛めてしまうという子供特有の行動だったのだ。

しかし、幼いわぴこにそんな感情が読めるわけもなく・・・大きくなっても鈍感だしね。

「綺麗じゃん。」

「さらさらだし、可愛いわぴこちゃんに似合ってるよ。」

葵と秀一がいつもわぴこを庇っていたのだ。

「本当?」

わぴこは、その言葉がとても嬉しかった。

わぴこ自身祖母から受け継いだこの髪を気に入っていた。

わぴこは、苛められることが悲しかったのではなくその髪を悪く言われたことが悲しかったのだ。

「「本当。」」

それからいつも三人は、一緒にいるようになった。

わぴこを間に手を握っている風景がよく見かけられた。

 

それ以来わぴこは、髪を揃える程度にしか切っていなかった。

二人が『好き』だと言ってくれたから大事にしてきたのだ。

わぴこは、ギュウッと二人の服を握って二人の背に顔を埋めた。

秀一の母親は、説得出来たら教えてね、ともう部屋を出ている。

「わぴこ。」

秀一は、ゆっくりと服を握っている指を開いて外させた。

葵と秀一は、わぴこに向って手を伸ばしわぴこは二人の胸に飛び込む。

「また伸ばせばいいだろ。」

葵がポンポンとわぴこの背中を軽く叩いた。

「短くてもわぴこの髪は、とても綺麗で僕たちは好きだよ。」

「あぁ、好きだな。」

秀一がわぴこの柔らかい髪を撫でながら言った言葉に葵も同意する。

わぴこは、より強く二人に抱きついた。

そして一言

「・・・切る。」

 

 

やっぱりわぴこは、髪が短くても可愛かった。

「どう?」

わぴこに見つめられることには慣れている二人もドギマギしてしまう。

「うん、可愛い。な、葵。」

「あぁ、そうだな。」

二人の言葉にわぴこは、満面の笑みを魅せた。

「わぴこね。」

「「うん。」」

「葵ちゃんの朝焼けに似た髪も秀ちゃんの漆黒に溶けるような髪も大好き!」

そして呆然とその言葉を受け止めた二人に向ってわぴこは、飛んだ。

二人は、しっかりとわぴこを受け止め抱き寄せた。

 

 

両手に温もり感じてわぴこは、今日も元気です。

 

 

終了

平成18821

悠湖さんからのリクエストでした。

とりあえずあんまりわぴこが二人に甘えてなくてごめんなさい。

髪の長かったわぴこがどうして短くなったのかが気になって書いてしまいました。

 

悠湖さんに楽しんでいただければ嬉しいです。