おでかけ
寒さが身にしみる朝早くに葵は、起こされた。
「あっおいちゃーん、おはよう」
既に出かける気満々のわぴこが葵の上に飛び乗った。
とりあえず葵は、わぴこを無視することにした。
しかし、無視させてもらえないのがわぴこなのである。
小学二年生の平均よりも身長も体重も小柄なわぴこだが強力に元気があるのだ。
「葵ちゃんってば、起きてぇ」
葵の上で飛び跳ねるわぴこを葵が勢いよく跳ね除けた。
「だぁ、煩い!重い!」
「あっ、起きた」
「・・・寝る」
ボサボサ頭の葵は、再度布団をかぶろうとした。
「駄目ぇ!」
わぴこは、必死にそれを阻止した。
「ったく・・・今日はなんなんだよ」
「ペンギンさん探しに行こうよぉ」
「・・・またかよ」
「うん」
わぴこは、葵に満面の笑みを見せた。
葵がわぴこの誘いを断らないと完全に信じている笑みである。
「秀は?」
「秀ちゃんは、今日一日ご本読むんだってぇ」
なぜかわぴこは、秀一の邪魔だけはしなかった。
「わぴこ」
「なぁに」
「今日は、俺はキノコ取りに行くから、ペンギン探しは無理だ」
「わぴこも行く」
わぴこの目が輝いた。
「お山、お山、お山に行こう」
わぴこは、ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねた。
その間に葵は、着替えを済ませた。
「わぴこ、朝ご飯は?」
「まだだよ。あっ、秀ちゃんが待ってるんだった」
「お前ねぇ、それを早く言えよ」
わぴこは、早く行こうとばかりに葵の背中に飛びついた。
それに葵は、驚くでもなく普通に受け止めて、そのまま台所へと向かった。
三人揃って朝ご飯を食べ終え、わぴこは既におでかけ準備を整えていた。
ちゃんと取ったキノコを入れる子供用に背負い籠もある。
「わぴこ」
「なぁに、葵ちゃん」
「ミーコたちは置いていけ」
「え〜!あったかいのに?」
「ミーコたちは寒いだろうが」
「・・・そっかぁ」
わぴこは、素直に納得してミーコたちを解放した。
ミーコたちは秀一がいる炬燵の布団の上で次々と包まった。
「たくさんとってきてね」
「うん」「おう」
わぴこと葵は、秀一に見送られ家を出た。
小学校の裏山に入り二人は、たくさんのキノコをとった。
陽射しは温かいが空気は少し冷たいそんな秋の日のおでかけだ。
「葵ちゃん、ここにもあったよぉ」
わぴこの頬が寒さで赤く色づいていたがわぴこ自身は、寒さなど関係ない感じで動きまわっていた。
「わぴこ気をつけ、どわぁ!」
わぴこに注意をしようとした葵が滑ってしまった。
「葵ちゃん、大丈夫?」
滑って仰向けになってしまった葵をわぴこが覗き込む。
「あ、あぁ」
わぴこの後ろには、秋空が綺麗に広がっていた。
葵は、その青さとわぴこの明るい髪の色がとても合っていると思った。
「葵ちゃん?」
しかし、そんなことをわぴこに言えるはずもなく葵は、なんでもない、と言って立ち上がった。
葵の方が少しだけ背が高いのでわぴこは立ち上がった葵を見上げた。
「葵ちゃんの髪、キラキラ光ってキレイだよねぇ」
「・・・言ってろ」
自分が言えない言葉を平気で口にするわぴこに葵は、素っ気無く応えた。
「葵ちゃん、お膝擦り剥いてるよぉ」
「これぐらい大丈夫だって」
「だぁ〜め、わぴこちゃんとバンソウコウ持ってるんだぁ」
それは、よく小さな怪我をするわぴこに秀一が常備持たせているものだ。
わぴこは、しゃがみ込んで葵の膝にそれを貼った。
「これで大丈夫」
相変わらずの笑みに葵は、やっぱり可愛いなと思った。
二つにくくった明るい髪がわぴこが動くたびに揺れていた。
「そろそろ帰るか」
「うん」
わぴこが手を差し出せば、葵も手を伸ばしその手を握った。
「今度は、ペンギンさん探しに行こうねぇ」
「あぁ、そうだな」
わぴこが笑顔でいつもそう言うから葵は断れないのであった。
二人が帰ると秀一は、炬燵で眠っていた。
それに引き寄せられるように、わぴこと葵も炬燵で眠った。
三人が起きるのは、ちょうど夕御飯の準備が終わる頃だった。
終了
平成21年11月6日
音さんからのリクエストでした。
わぴこは秀一の邪魔をしないのではなくて、
ペンギン探しは、葵とするものと勝手に決めているからなんです:笑
結局の所、葵はわぴこには甘いんです、ってことが言いたかったんですよ。
音さんに楽しんでいただければ幸いです。
アンケートに答えて下さりありがとうございました。