存在 葵×わぴこ
幼い頃から両親は、ほとんど家にいなかった。
愛されているのは、子供ながらに感じていた。
だけど、家にいてもいつも一人だった。
それが嫌で毎日いつもの木陰で膝を抱えていた。
「なにしてんの?」
いつものようにそうしていると、誰かが顔を覗き込んできた。
無視を決め込んでプイッと顔を横に向ける。
「ねぇ、なにしてんの?」
いちいち横に移動して顔を覗き込み再度問い掛けてくる。
それでも無視を決め込んでいるといきなり両頬を引っ張られた。
「な・・・なにひゅんだ。」
頬を引っ張られているので言葉が巧く綴れない。
「綺麗な蒼色・・・お空みたいね。」
そう言ったのは、隣りに住む同じ歳のわぴこだった。
赤ちゃんの頃から知っている存在だ。
だけど、面と向かったのは今日が初めてかもしれない。
眸のことを言っているのだと理解するのに少し時間がかかった。
「葵ちゃん、一緒に遊ぼう。」
薄っすらと赤味を帯びている眸は、夕やけのようだと思った。
「俺は、ここにいる。」
何を意地になっているのか差し出された小さな手を拒否した。
――――ガサガサ
「ちょ、なにしてんだ。」
ただでさえ狭い所なのにわぴこが隣に座り込んできた。
「じゃ、わぴこもここにいる。」
何が嬉しいのか、わぴこはニコニコしている。
どれくらいの時間が経ったんだろう。
隣の体温が温かくて嬉しかったんだ。
だけど、素直になれなくて言葉にできなくてチラリと隣を見た。
相変わらず何が嬉しいのかわぴこは、ニコニコしている。
「お前、何がそんなに嬉しいわけ?」
「え〜葵ちゃんと一緒にいるからだよ。」
この言葉は、本当に嬉しかったんだ。
「あっそう。」
夕やけが眸に沁みて涙が出そうになった。
「一緒に帰ろう。」
差し出された小さな手を今度は、ちゃんと握った。
わぴこの両親もほとんど家にいない。
一緒にいると嘘の様に寂しさがなくなった。
「ずっと、ずっと一緒にいようね。」
その言葉に嫌な顔をするとわぴこは、ピョンピョンと飛びついてきた。
「ずっと一緒だよ。」
その姿が堪らなく可愛かったりする。
「あぁ。」
そして、応えた後の笑った顔がそれよりも可愛かったりする。
あれから、もう十数年経つがわぴこはずっと一緒にいる。
相変わらずのニコニコ顔だ。
「締まりのない顔だな。」
笑って眉間を指で弾けばいつもと変らない言葉が返ってくる。
「葵ちゃんと一緒にいるからだよ。」
いつ何度聞いてもこの言葉は、嬉しいんだ。
そして、わぴこは相変わらず可愛かったりする。
年を重ねる毎に可愛くなっているのは、絶対気のせいじゃないだろう。
終了