音のない森 5

 

 

見渡せばそこにいくつもの足跡

誰もが通り行く場所なんだろう

 

 

俺は、森に招かれている。

近頃、そう思えてきた。

 

生まれてからずっとこの名と身体なのだ。

これが『俺』だと『油女シノ』だとはっきりと言える。

身体中に滞在する蟲たちも嫌いじゃない。

 

幼い頃は、自分が好きではなかった。

他人に自分の身体の蟲たちを見られたくなかった。

見せないようにと躾られてきた。

 

だから、見せると嫌がられると思っていた。

実際、見た奴らは足早に俺から離れていっていた。

 

 

『全然気持ち悪くなんかないけど』

 

 

『だって、蟲たちはシノの『相棒』なんだろ』

 

 

そんな反応されるなんて微塵にも思ってなかったんだ。

だって、今までそんな風に反応する人なんて身近な人しかいなかった。

 

幼馴染たちは、生活環境の中で無条件に俺を受け入れてくれている。

だが、奴は初対面でそう言ったんだ。

 

『蟲たちもシノが好きって言ってる』

 

俺の蟲たちを否定しないでくれた。

俺は、ただ純粋にそれが嬉しかった。

 

 

それからだ。

少しずつ俺は、自分を好きになれるようになった。

自分が『油女シノ』で存在していいのだと思えるようになった。

 

 

そして、この森にくるようになったのもその頃からだ。

 

 

初めは、自分の迷いだと感じていた。

 

でも、

 

違う、と確信した。

 

 

 

この森には、たくさんの人が通った痕跡がある。

暗闇に囚われて本質を見抜けなくなっていたな。

 

無造作に、いくつもの足跡が地面に広がっていた。

 

一体誰が?

 

なんてことは、別に知りたいとは思わない。

 

俺は、行かなくてはならない。

辿り着かなくてはいけない。

 

 

 

こんな足跡など、俺には関係の無いものだ。

 

 

 

きっと、あの月は待っている。

 

 

 

見え隠れする『悲しみ』に『嘆き』そして『諦め』

ふとした瞬間に現れる『虚ろな眸』

 

それら全てが隠されている。

 

気がつけば見ていた。

いつも気になって眸を逸らせないでいた。

 

 

だから、俺はあの場所へ行かなくては、辿り着かなくてはいけない。

 

 

 

 

きっと、

 

 

 

 

 

あの月が、

 

 

 

 

 

俺を

 

 

 

 

 

この森に呼んだのだ。

 

 

 

 

そうして、また月は隠れる。

 

 

 

 

シノは、しっかり者だと思います。

確かな情報と根拠を元に己の理論をちゃんと組み立てている、そんな感じ。

 

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