音のない森 7
過ぎて行く時間にも 景色にも変わらないもの
僕たちはここに居る 呼吸を止めずここに居る
ナルトは、頬に残る寂しい気持ちの痕をそのままに顔をあげた。
『鼓動』は、もうすぐ傍まで来ている。
どんどん、どんどんナルトに近づいてくる。
それは、迷うことなく一直線に向って来ていた。
暗闇から生まれくるようにその『鼓動』は、輪郭を現した。
その姿にナルトは、目を見開いた。
「どうして?」
そして『鼓動』は、いつもと変わらぬ表情でナルトの前に立った。
「どうして、シノがここにいる?」
ナルトの問いかけにシノは、ゆっくりと口を開いた。
「お前が俺を呼んだのだろう、ナルト。」
そうシノは月のように青白くそして金色に輝く光に導かれたのだ。
いきなり迷い込んだ森にあったのは、その光だけだった。
だから、ずっとその光に向って足を進めていた。
どれくらいの時間が過ぎて、どれくらいの景色を後にしてきただろう。
「俺は、呼んでない。」
ナルトは、シノから視線を逸らしその場にしゃがみこんだ。
「ここでずっと待っていたのだろう?」
「待ってない。」
意固地なナルトの顎を掴みシノは、ナルトの顔を上に向かせた。
そして、頬に残る痕にスゥッと親指を辿らせた。
「寂しかったのだろう?」
シノの行動にナルトは、カァァっと顔に朱を走らせた。
自分の弱さを嫌うナルトは、人に弱さを悟られるのも見られるも嫌だった。
「俺は、一人でも平気。」
ジタバタともがきシノから離れようと試みるがそれは叶わない。
シノに手首を掴まれサングラスの奥の眸に射抜かれる。
視線を逸らすことさえ許されない程の真っ直ぐな眸だった。
「俺は、ずっと一人だったから。だから、これからも平気。」
「俺が平気じゃない。」
シノの言葉にナルトの眸が揺れた。
「シノが、平気じゃない?」
シノの言葉を繰り返してみる。
「あぁ。」
僅かに頷きシノは、掴んでいたナルトの手首から手を離した。
そして、その手でナルトの頭を撫でた。
「お前は、もっと俺に甘えても良い。」
シノの眸に映るナルトは、いつも元気だった。
だけど、ふとした瞬間その表情が陰ることがあった。
それは、本当に一瞬でいつも見ていないとわからないものだ。
ナルトにしてみれば、なぜシノがそう言うのかわからない。
「なんで、俺がシノに甘えないといけないかな。」
先程の沈み込んだ眸からは、想像出来ない程の挑戦的な眸をナルトはしていた。
ザワリとシノの蟲たちがざわつく。
この森に迷い込んで初めて蟲たちがざわついたのだ。
シノは、確信した。
「俺は、お前と在るためにここに居る。」
なにも無い虚無の世界だった森が急激に時間と景色を取り戻し過ぎ去って往く。
だけど、まだ迷いの森の中だ。
「ナルト、お前はずっとここで俺を待っていたのだろう?」
ナルトは無表情なのに優しい音色を零すシノの腕の裾をギュウっと握った。
視線を地面に落とし、その握った指は微かに震えている。
「俺は、一人でも平気なんだ。」
「俺は、ナルトがいないと平気じゃないな。」
「俺は、一人が好きなんだ。」
「俺は、ナルトといるのが好きだな。」
「シノがそう言うなら一緒にいてやっても良いよ。」
「それは、ありがたい。」
シノの腕の袖を握ったままナルトは、顔をあげた。
嬉しそうに、でも切なそうにナルトは微笑んでいた。
だから、シノはなにも言わず黙ってナルトを抱き締めた。
続
シノってば男前ね。
ナルトは、意地っ張りだからゆっくり解してあげて欲しいものです。
根は、素直だから一度箍が外れるとすごく甘えてくれると思う。